「ROIS-DS-JOINT 2025」成果報告一覧表

「ROIS-DS-JOINT 2025」成果報告一覧表


一般共同研究

001RP2025 辻 雅晴

南極域の菌類は、近年の急激な地球温暖化により生息域の大幅な縮小が懸念されているが、その低温に特化した特徴から新たな微生物資源としても注目を集めている。しかし昭和基地周辺から分離された菌類は日本の微生物保存機関にわずか5種8株しか保存されていない。

そこで本研究では、微生物資源として注目を集めながらも日本では、ほとんど保存されて来なかった南極産菌類について、統一した菌株番号を付与したのちに保存する。さらにその菌株は誰がいつ、どこの試料から分離したのかという基礎的なデータを本研究はR5年度〜R7年度の3年間をかけて、南極・昭和基地周辺の試料から分離した菌株の種名、菌株番号と併せて管理し、データベースの構築し、共同利用、データサイエンスへの利活用の促進を図ることを目的とした。

R7年度は、南極・昭和基地周辺の試料から分離した菌株のうち、当初の計画通り500株について、菌類のマーカー遺伝子であるITS領域および26S rRNAのD1/D2領域の塩基配列をPCR法により増幅を試みた。その結果、500株中427株について遺伝子の増幅に成功した。PCRにより遺伝子の増幅に成功した427株をキャピラリーシーケンサにより、塩基配列を決定した。

その結果、111株は子のう菌類であり、9属12種に分類できた。209株は担子菌類であり、11属18種に分類できた。残り107株は細菌類であったため、細菌類のマーカー遺伝子である16S rRNAをPCR法により増幅し、その遺伝子配列を決定することで、細菌類であることを確認した。

種同定した菌株については、イーストペプトンデキストロース液体培地(YPD、Difco)およびポテトデキストロース液体培地で10℃、1週間攪拌培養した。攪拌培養した各菌株は、2mLクライオチューブに1mL分注し、そこに1mLの5%トレハロース含有20%グリセロール溶液を加え、NIPRから始まる4桁の菌株番号を付与した後、-80℃のディープフリーザに保存した。

菌株番号、種名、試料の採取場所、マーカー遺伝子の配列情報を1つにまとめた、データベースは、2024年10月から国立極地研究所 生物圏研究グループのHP(https://www.nipr.ac.jp/biology/)上ですでに公開しており、R7年度の結果も随時追加し、データベースの拡張を行なっている。


002RP2025 金井 雅之

アジア8ヶ国の国際共同研究グループを基盤とする本研究の目的は、国際比較調査の運営とデータ共有をめぐる今日的課題を検証し、調査参加者の保護とデータの学術的価値を両立させるための方策を探ることであった。特にインタビュー、参与観察、ビジュアル・メソドロジーなど、多様な調査方式を用いた国際比較調査をおこなう際の課題を検討した。

 3年目にあたる今年度は、3年間の研究成果を国際的に発信するために、国際学会でセッション報告をおこなった。具体的には、2025年11月22日に立教大学で開催されたWAPOR Asia Pacific 8th Conferenceにおいて、Management and Data Sharing in International Joint Surveys with Diverse Methodsというセッションでの報告を、以下の参加メンバー5名でおこなった。

報告者 報告タイトル
Batsugar Tsedendamba Localization, privacy and cultural context in joint international qualitative studies
Anh Nguyen Dang Contextualizing Qualitative Methods in Cross-National Research: Reflections from Vietnam
Emma Porio Contexts, Challenges and Practices of Data Collection/Sharing in the Philippines
Lugina Setyawati International Joint Surveys Project on Social Well-being: Challenges of Data Collection and Sharing in Indonesia
Surangrut Jumnianpol Beyond Numbers: Contextual Challenges in Data Collection and Sharing in Thailand
 報告の内容は各国の個別事情やどのような調査を念頭におくかにより多岐にわたったが、個人データ保護に関する法的枠組み、調査で使用する言語に関する諸問題、政治的・社会的諸条件によって安全かつ信頼できる調査の実施がむずかしい場合があることなどが、主要な論点として議論された。

 本研究の基盤となるアジア8ヶ国の国際共同研究グループでは、科研費等の資金を得て2025年度から、調査票による国際比較調査を新たに実施している。3年間にわたった本研究の成果は、この調査の実施やデータ公開に役立てられるだろう。


003RP2025 AGOTNES, Thomas

The research was carried out by a combination of physical meetings in Tokyo, over two approximately 10-day periods in November 2025 and February 2026, as well as virtual meetings and physical meetings among the foreign participants in Bergen, Norway.

In December 2025 we applied to ROIS-DS to add an additional researcher, Elise Perrotin, as a project participant, which was approved.

In the second year the research started in the first year was continued. The key privacy-related concept that was identified in the first year was the notion of anonymous public announcements, which occur, e.g., when someone makes an (pseudo-)anonymous post online. Depending on the background knowledge of other agents, such a pseudo-anonymous announcement might actually not be anonymous. Furthermore, we show that intentionally anonymous public announcements, where it is assumed that the announcing agent does not want to reveal his or her identity, can in fact reveal more information – contrary to intuition. The notion of anonymous public announcements has been formalized as a modal logic, and axiomatic bases for resulting logics have been developed and shown to be sound and complete.

Furthermore, we identified the key issue of being able to quantify over anonymous announcements. This makes it possible to answer questions like “Is it possible to make a certain fact known through a public, but anonymous, announcement?”. We extended the logics mentioned above to be able to reason about quantification over possible anonymous public announcements: is there an anonymous public announcement that can achieve a given epistemic goal, without revealing the identity of the announcer? This ranges over both direct anonymous announcements of a fact one wants to be known by everyone, to indirect announcements of something else that will enable someone to deduce the fact and someone else not. Examples are, e.g., found in whistleblowing scenarios. In this paper we introduce a logical operator that captures “there exists an anonymous public announcement such that ...”, and study its properties. The main result is a sound and complete axiomatisation of the resulting logic.

In terms of concrete outcomes, the following are published and submitted articles, as well as scentific presentations resulting from the project.

Publications:
Ågotnes, T., Galimullin, R., Satoh, K., Tojo, S. (2026). Intentionally Anonymous Public Announcements. In: Goranko, V., Shi, C., Wang, W. (eds) Logic, Rationality, and Interaction. LORI 2025. Lecture Notes in Computer Science, vol 16010. Springer, Singapore. https://doi.org/10.1007/978-981-95-2481-5_1
Anonymous Public Announcements, by T. Ågotnes, R. Galimullin, K. Satoh and S. Tojo, Arxiv pre-print. URL/DOI: https://doi.org/10.48550/arXiv.2504.12546

Manuscripts currently under review:
What Anonymous Public Announcements Can Do, by T. Ågotnes, R. Galimullin and K. Satoh, submitted to a conference.
Anonymous Public Announcements, by T. Ågotnes, R. Galimullin, K. Satoh and S. Tojo, submitted to a journal.

International talks:
The Logic of Anonymous Public Announcements, Thomas Ågotnes. Sun Yat-sen University (Guangzhou, China), 2025/04/25.
The Logic of Anonymous Public Announcements, Thomas Ågotnes. Università degli Studi di Napoli Federico II (Naples, Italy), 2025/09/22.
The Logic of Anonymous Public Announcements, Thomas Ågotnes. Keynote talk at The 17th International Conference on Knowledge and Systems Engineering, Da Lat, Vietnam, 2025/11/06.
The Logic of Anonymous Public Announcements, Thomas Ågotnes. Peking University (Beijing, China), 2025/11/22.
The Logic of Anonymous Public Announcements, Thomas Ågotnes. Shandong University (Jinan, China), 2026/01/08.
Anonymous Public Announcements, Thomas Ågotnes. LUCI seminar series, University of Milan (online), 2026/03/11.
On the Logic of Anonymous Public Announcements, Thomas Ågotnes. Invited speaker. 8th Asian Workshop on Philosophical Logic, 6-8 April, 2026 (Chongqing, China).


004RP2025 中嶋 一貴

研究エコシステムの持続可能性は、研究者の人口構成とジェンダーバランスに深く依存するが、これらの動態を政策立案のために適時適切に評価することは困難である。既存の計量書誌学的手法は、研究者の論文出版キャリア終了の定義を必要とするため、評価に大きなタイムラグが生じるという課題があった。本研究では、この課題に対処するため、大規模な論文データを活用し、国別の研究者人口動態とジェンダーバランスの軌跡をタイムリーに追跡・可視化・比較するための新たな分析基盤である「研究者人口ピラミッド」フレームワークを構築し、その有効性を実証することを目的とした。

大規模論文データベースOpenAlexから約1,500万人の著者、約1.5億件の論文データを抽出し、分析対象とした。まず、国・性別ごとの論文出版間隔の分析に基づき、各研究者が特定の年に「論文出版活動中」であるかを判定する閾値を設定した。次に、論文出版キャリア終了を待たずに測定可能な新指標として、中断のない連続した論文出版数を表す「累積生産性」を定義した。この累積生産性と著者の性別に基づき、58カ国を対象とした研究者人口ピラミッドを時系列で構築した。さらに、2023年までの観測データに基づき、将来の人口動態のシミュレーションモデルを実装した。

本研究により、研究者人口ピラミッドのフレームワークを開発し、その診断ツールとしての有効性を検証した。58カ国の分析から、各国の研究エコシステムが「新興」「成熟」「停滞」と名付けた3つの異なる発展パターンを示すことを見出した。例えば、多くのアラブ諸国に代表される「新興」システムでは研究者の流入が活発である一方、累積生産性における性差が拡大する傾向が見られた。米国などの「成熟」システムでは研究者の流入は穏やかで性差は縮小傾向にあり、日本などの「停滞」システムでは両側面で進展が緩やかであることが定量的に示された。本フレームワークは、各国の研究エコシステムが直面する構造的課題を可視化し、持続可能な研究エコシステム確立のためのデータ駆動型政策立案に貢献するツールとなることが期待される。

本研究成果は学術論文としてまとめ、国際学術誌『PNAS Nexus』に採択された。

論文 (査読あり): Kazuki Nakajima and Takayuki Mizuno, "Researcher Population Pyramids: Tracking Demographic and Gender Trajectories Across Countries," PNAS Nexus, pgag059 (2025), https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgag059


005RP2025 中田 裕之

本研究では、HFドップラー(HFD)観測により得られる電離圏ドップラー周波数データに対して主成分分析(Principal Component Analysis: PCA)を適用し、電離圏の基本的な日変動成分の抽出とその特徴解析を行った。電離圏は太陽放射の影響を強く受けるため、日変動は最も基本的な変動成分であるが、観測データには太陽フレア・スポラディックE層など,さまざまな要因に起因する擾乱や不規則変動が常に含まれており、純粋な日変動成分の抽出は容易ではない。本研究では、この課題に対して主成分分析を導入し、観測データに含まれる支配的な変動の分離を試みた。解析には、HFドップラー観測網により取得された2005年から2015年までの約11年間の長期データ(5.006 MHz,菅平観測点)を用いた。データは前処理として、受信強度が低い時のデータの除去を行った後、日単位の時系列データとして整理し、日ごとの変動に基づく主成分分析を適用した。その結果、第1主成分(PC1)は他の主成分と比較して振幅が顕著に大きく、観測データの主要な変動を支配していることが明らかとなった。PC1は磁気静穏日の平均日変動と高い相関(0.5~0.9)を示し、波形もよく一致することから、電離圏の基本的な日変動成分を表していると考えられる。一方、第2主成分以降の振幅はPC1の1/10~1/100程度と小さく、擾乱や局所的な変動を反映していると解釈される。これにより、HFDデータに含まれる複雑な変動が、背景的日変動と擾乱成分に分離可能であることが示された。 さらに、抽出された日変動成分の物理的妥当性を検証するため、太陽活動指標F10.7および国際標準電離圏モデル(IRI)との比較を行った。その結果、PC1の振幅はF10.7と強い相関を示し、特に年平均では相関係数0.927と高い一致を示した。また、IRIから推定した反射点鉛直速度との比較においても、ピーク時刻および変動形状が良く一致し、主成分分析によって抽出された成分が電離圏の実際の物理過程を反映していることが確認された。加えて、月別解析により日変動ピークの出現時刻には明確な季節依存性が存在し、夏季には早く、冬季には遅くなる傾向が示された。これは日の出時刻の変化に対応しており、太陽放射による電離過程の時間変化を反映していると考えられる。また、日の出付近におけるピーク振幅は約11年周期で変動しており、太陽活動周期との対応関係も確認された。

以上の結果より、主成分分析はHFドップラー観測データに含まれる日変動成分を安定的に抽出する有効な手法であることが示されるとともに、長期変動や太陽活動との関係を定量的に評価する上で有用であることが明らかとなった。本手法は、電離圏の基礎変動の理解に加え、擾乱現象の抽出・分類や宇宙天気影響の定量評価への応用が期待される。今後は、数値モデルとの統合やデータ同化手法との連携により、電離圏変動の高精度予測への展開が重要な課題となる。


006RP2025 板木拓也

本研究は,AIによる粒子認識と高分解能化学組成マッピングデータを統合した世界初の「高分解能化学組成マッピング統合型AI粒子認識・自動集積システム」の構築を目的とし,従来の表面露出年代測定法において不可欠であった大量の岩石試料や多量の化学薬品,そして熟練を要する化学処理工程を,データ駆動型アプローチによって自動化・省力化・低環境負荷化することを目指したものである.

具体的な実施内容として,まず石英や長石といった光学的外観が類似し判別が困難な鉱物粒子に対し,XRFマッピングによる元素組成データとAIによる画像認識を組み合わせることで高精度に識別するモデルの構築に着手した.その過程において,XRFマッピングの精密化には専用の試料ステージの整備が不可欠であることが判明したため,これの設計と導入を優先的に進めた.また,鉱物粒子のピッキング工程についても,当初は金属製の試料トレイを外注する予定であったが,最適な形状や微細な仕様を事前に見出すことが困難であったため,計画を変更し,光造形3Dプリンターを導入した.これにより,トライアンドエラーを通じた迅速な形状最適化が可能となり,開発した専用トレイと特注のガラスピペットを装着したマイクロマニピュレータを連動させることで,識別した粒子を物理的に集積する一連のフローを確立することができた.以上の取り組みによって,極微量かつ貴重な試料からも効率的に年代測定用試料を集積できる確かな目処が立ち,これまで分析が困難であった地球科学試料や考古学的試料への応用を可能にする新たな道筋を示した.本成果は,自然科学・人文科学の両分野における時空間情報解析の高度化に寄与するものであり,今後は当初の計画通りデータ解析基盤とマニピュレータの制御ソフトウェアの開発を統合し,システムの完全な完成と社会実装を目指す.


007RP2025 鄭 躍軍

本研究の主な目的は、これまで実施した面接、郵送、電話とWeb調査の調査モードにおける回収者層の特性と回答傾向を特定することにある。特に、1) データサイエンスの視点から、回収層の人口統計学的特性、調査協力態度及び回答傾向の多面的な比較分析を行うこと;2)面接、郵送、電話、Webなどの調査モード別に、信頼性の高い標本抽出方法及びデータ収集方法を考案すること;3) 実証的分析結果を基に、Web調査と従来の統計的無作為抽出法による調査の補完的な活用方法を模索することを、中心的な研究課題とししてきた。

今年度は、回収層の人口統計学的特性に基づく標本の統計的代表性の検討及び有効回答者層の調査協力態度と回答傾向の評価を主に遂行した。データ分析の結果、郵送調査に比べ、Web 調査の回答者が若年層、高学歴、事務系、主婦・主夫、無職者、1人世帯の回答者が占める割合は多く、逆に、農林水産業、専門・自由業、作業系の従事者は比較的少ないことが明らかになった。調査協力態度について、郵送調査よりWeb 調査の回収層は、「断る理由もない」や「わからない」の割合が多いことが特徴的である。一方、今後の調査協力意向について、郵送調査とWeb 調査はともに、全体的に「必ず答える」「なるべく答える」の回答者が約8 割を占めており、両調査モードの回収層はともに調査協力意向が強いと言える。

また、各種の調査モードの回答者層の特性と回答バイアス発生の関連性を分析した。その結果、Web 調査において、基本属性に限らず、質問全般にわたって「わからない」の割合が多いことと、極端な短時間で回答を済ませた回答者が多く存在することが確認された。

さらに、昨年度に実施した全国郵送調査の報告書を取りまとめ、質問内容と集計結果を検索できるように、インターネット上でデータを公開した。(参照:https://cns-ceas.doshisha.ac.jp/

今年度の代表的な研究成果として、以下のものを挙げる。
鄭 躍軍, 前田忠彦, 陳 艶艶(2025):Web調査における不良回答の判断基準の考察-回答時間と省力回答検出質問を焦点にー.よろん (136):15-22.
鄭 躍軍(2025):紙媒体版とオンライン画面版の調査票による回答影響.日本行動計量学会第53回大会抄録集(53): 2-5.
BAROLLI Senia, 鄭 躍軍(2025):⽇本における家庭系フードロス削減⾏動の実態とその影響要因,日本行動計量学会第53回大会抄録集(53):10-13.
鄭 躍軍, 前田忠彦, 陳 艶艶(2025):統計的社会調査における回収層の特性分析 ――Web 調査と郵送調査への協力態度を焦点に――.行動計量学 53(1)(印刷中).
鄭 躍軍(2026):日本人の生活と環境に関する意識調査 ―全国郵送調査(2025)―.同志社大学社会調査研究センター 研究リポートNo.2,170pp.(参照:https://cns-ceas.doshisha.ac.jp/pdf/survey05.pdf


008RP2025 楠城 一嘉

目的
静岡県北部は3000m級の山々が連なる南アルプスに含まれる。現在も年間1-4mmの速度で隆起を続けており、国内でも最速級の隆起域である。まさに「生きている山々」といえる。2014年のユネスコエコパーク登録以降、南アルプスがもたらす多様な恩恵が再認識され、持続的発展に向けた取り組みが進められている。

ユネスコエコパークが掲げる自然と人間社会の共生という観点からは、リニア中央新幹線のトンネル掘削を、大地の持続的な利活用の一形態と捉える見方がある。一方で、トンネル掘削に伴い大量の地下水が流出し、大井川の水量減少を引き起こす可能性や、それに伴う静岡県の自然や大地の環境、および人間を取り巻く生活環境の変化について、慎重な議論が続いている。南アルプスと多様なステークホルダー(地主、工事・環境保全関係者、里山住民、地元自治体など)がより良い形で共存し、将来へと継承していくためには、当該地域で生じている地殻活動を的確に把握することが不可欠である。

本研究では地球科学を専門とする研究代表者らが、上記の背景のもと、地震、地滑り、湧水、地質を指標とした観測体制の整備を進めた。今後は、トンネル掘削も南アルプスの変化の一部と捉え、各指標の継続的な観測とデータ蓄積を行う予定である。現状ではデータのアーカイブ化が十分に整備されておらず、このままでは研究者間のデータ共有や時系列解析が将来的に困難となることが懸念される。そこで本研究では、静岡県北部南アルプスの地殻活動に関するデータの体系的なデータベース化と、その公開を支援するプラットフォームの構築を目指した。

成果
本研究の推進により、静岡県北部南アルプスにおける地殻活動に関するデジタルデータを一元的に閲覧できる環境を構築した。本成果は、これらのデータを活用した二次、三次研究の更なる展開を可能にするものである。特に、トンネル掘削開始前から観測を実施し、データを蓄積してきた点は重要であり、今後、掘削に伴う自然環境や生活環境の変化を評価する際の基礎データとして極めて重要な位置付けを持つ。

本研究では、データ専用Web公開システムを構築し、データの公開を進めた(リンク1,2)。公開Webサイトから、kml/kmz形式のデータをダウンロード可能とし、専門家や関係者がGoogle Earth Proを用いて地殻活動(現段階では地震と地滑りのみ)を可視化できる環境を整備した。主な成果は以下の通りである。

最速級の隆起速度を示す本地域では、大きな応力が作用しており、日常的に地震が発生している。しかし、アクセスの困難さから観測点が少なく、静岡県北部南アルプスは地震観測の空白域となっている。また、トンネル掘削により応力場が変化し、地震活動の様式が変化する可能性もある。このため、工事前からの地震観測が重要である。本研究では、静岡県北部の南アルプスにある二軒小屋ロッヂ、椹島ロッヂ、千枚小屋周辺に地震観測装置を設置し、地震観測が可能であることを確認した。さらに、地震のカタログ(地震の位置、時刻、大きさのリスト)を作成し、専用Webシステムを構築し公開した(リンク1)。

本地域は地滑り地形が多く分布するが、現在進行している地滑りの把握は十分ではない。また、トンネル工事により地滑り活動の様相が変化する可能性がある。本研究では、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」の合成開口レーダ(SAR)データを用いて解析を行い、地滑りと推定される領域の抽出が可能であることを確認した。これに基づき地滑りのカタログを作成し、データ専用Webシステムを構築し公開した(リンク2)。

南アルプスの湧水は新たな研究対象であり、その成分、起源、流路などには未解明な点が多い。トンネル工事に伴う地下水流出や応力変化によって亀裂の開閉が生じることで、地下水流路や湧水の成分が変化する可能性がある。本研究では、複数地点で湧水(環境水)を採取し、成分分析に向けた基礎観測体制を構築した。今後は分析結果をデータベースに集約し、公開する仕組みの整備を進める。

古環境変化の検討(駒鳥池ボーリング調査):現在の地殻活動をより長い時間軸で評価するため、大阪公立大学(奥野研究室)と共同で、駒鳥池において湿原堆積物のボーリング調査を実施した。堆積物の層序や花粉化石の群集組成などの検討を行うことで、地域の地質学的な基礎データの拡充を図った(文献1)。

展開
本研究の進展を受け、今後はDS施設教員と連携し、本研究で作成したデータベースを分野横断型研究データカタログAMIDERに連携させることで、オープンデータ化を推進する。研究間の接続性や研究者間の連携可能性の向上が期待される。本展開は、ROIS-DSの共同利用研究の特長を活かしたものと位置付けられる。

また、本研究を起点として、以下のような多角的な社会還元を実施した。これらは、データサイエンスが地域のレジリエンス向上や教育的価値の創出に寄与することを示す重要な成果である。

2025年6月と2026年3月に一般向け講演会を主催し研究成果を報告した(リンク3,4)。特に、2026年3月の講演会ではプレスリリースを行った結果(リンク5,6)。メディアでも報じられ(報道1)、工事に伴う環境変化に対する学術的監視の重要性を広く社会に提示した。さらに、静岡新聞のビジネス特集「SHIZUCONE」において、本研究の社会実装や産学連携の可能性が詳しく紹介された(報道2)。データサイエンスを通じた地域経済への寄与について広く発信した。

研究成果を広く地元に還元する活動の一つとして、本研究の成果を地元の井川小中学校へ還元し、総合学習「井川学」における児童の探究活動を支援した。土砂災害と地震という対照的な視点からの調査・考察を支援した結果、児童による地域講演会での発表を成功に導くなど、専門的知見を次世代の防災教育へ実装する機会を得た。

リンク
https://shizuoka-earth.org/index.php/mountain/alps4/
https://shizuoka-earth.org/index.php/mountain/alps3/
https://shizuoka-earth.org/index.php/news/1195/
https://www.global-center.jp/holding_guidance/20260317/
https://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/media/20260302_press.pdf
https://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/events/gc20260317/

報道
工事機に自然より豊かに 静岡で南アルプス環境研究会 大井川とリニア, 静岡新聞, 2026年3月24日.
南アルプスの「鼓動」可視化 静大特任教授の研究、ビジネスに応用, 静岡新聞 SHIZUCONE, 2026年3月16日. URL: https://www.at-s.com/s/business/article/528.html

文献
富満千尋・藤木利之・林田 明・中西利典・南 雅代・ホン ワン・松村虹希・新地青空・奥野 充.南アルプス千枚岳南東斜面,駒鳥池の湿原堆積物の層序と環境変遷.国際火山噴火史情報研究集会講演要旨集,2025 (2),3-02,p.56-60,2026年2月(査読なし).


011RP2025 坊農秀雅

最終年度となる2025年度は、ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)主催のTogothon(毎月開催)への参加により公共データベース利用技術開発のために必要な情報収集と研究ディスカッションを引き続き行った。

DBCLSバイオハッカソンでこれまで開発を進めてきたパスウェイ情報利用に関するシステム構築を今年度引き続き継続し、ゲノム編集ターゲット選定に資するリソースづくりのデータ解析基盤技術として開発を進めた。特に2025年9月に三重県で行われた国際版バイオハッカソンでは大学院生4名も加わり、非モデル生物におけるパスウェイ解析の基盤となるデータ構築を共同で進めた。その取り組みはBioHackrXivにプレプリントとして報告済みである(DOI: 10.37044/osf.io/m37f2_v1)。

また、ゲノム編集ターゲット選定を目的とした解析ワークフローの構築も継続して行った。メタゲノムとメタトランスクリプトームの両方のデータからメタゲノム解析を行う手法の開発を行い、査読ずみ論文として出版した(DOI: 10.3390/microorganisms13050995)。イネにおいて熱ストレスによって変動するトランスクリプトームデータを公共データベースより複数取得し、ヒト培養細胞における同様のストレス刺激の発現データとメタ解析するためのデータ解析ワークフローを開発し、査読ずみ論文として公表した(DOI: 10.1093/bioadv/vbag013)。

さらにこれらのデータ解析ワークフローに関しては、2025年度の国際版バイオハッカソンにてCommon Workflow Language (CWL)によるワークフロー化に取り組み、その成果をBioHackrXivにプレプリントとして報告した(DOI: 10.37044/osf.io/qd5sz_v1)。


013RP2025 田村 亨

本研究の目的は,日本列島全域を対象に,将来の相対海面上昇とその不確実性を示すデータベース(DB)を構築することである.このために,次の5つのデータを収集する.1) 短期(過去数年)の地盤上下動.GNSS電子基準点データと衛星の干渉InSAR解析(Sentinel-2やPALSARなど)に基づく.2) 中期(過去数十年)の地盤上下動.験潮記録に基づく.3) 長期(完新世〜最終間氷期以降)の地盤上下動.地質記録に基づく.4) 海面上昇データ.IPCCシナリオや他の氷床融解モデルによる将来予測.5) アイソスタシーによる地盤変動.

以上の全体像のうち今年度は,1) GNSS電子基準点データに基づく2021から2025年までの地盤上下動データの収集・整備と,2)のデータとの比較を行った.その結果を図1Aに示す.GNSS電子基準点のデータでは三陸海岸沿いに顕著な隆起が見られる一方で,道東や西日本の特に太平洋側で10 mm/年に及ぶ沈降が見られるなど,地域多様性が認められる.これを験潮記録(図1B)と比べると,特に三陸海岸の沈降から隆起への反転が目立つ.これは日本海溝沿いで2011年東日本地震が発生したのと同時に1メートルにも及ぶ沈降が置き,その反動での隆起を反映している.このように今年度は,日本列島における地盤上下動には大きな地域多様性が見られるとともに,巨大地震に関連して時間多様性があることが明らかになった.

図1. A:日本列島における海岸沿いのGNSS電子基準点データに基づく2021年から2025年までの地盤上下動の平均速度.赤が隆起,青が沈降を表し,スケールは±10 mm/年.B:潮位記録に基づく2013年以前の地盤上下動の平均速度(Okuno et al., 2014, Quaternary Science Reviews).


014RP2025 福島敦史

本研究の目的は、質量分析オミックスデータに対応したパスウェイエンリッチメント解析のための新たな「分子セット」と解析基盤を開発であった。申請時に、以下の目標を設定した:
(1) 公共データや文献情報を利活用して、生物学的意義のある分子セット(遺伝子セットの拡張)を新たに定義・構築
(2) 構築した分子セットに対し、複数の統計的手法を適用可能なエンリッチメント解析ツールのプロトタイプを開発
(3) 分子セット情報およびメタデータの構造化とデータ共有を行い、知識グラフ化により生命科学データベースとの連携を可能にする

(1)に関しては、昨年度に引き続き、質量分析由来のオミックスデータの再解析および過去文献(論文のサプリメントデータ含)からの情報抽出とを組み合わせ、新規のカテゴリ「分子セット」を定義・整備することを第一目標とした。当面ヒトを対象生物種として、「がん」に関連する公的利用可能な質量分析オミックスデータの収集を試みた。

【メタボローム】
公共のレポジトリデータベースMetaboLightsから分子セット構築に使えるデータを絞り込んだうえで、実際にGene Matrix Transposed File Format (*.gmt)形式の分子セットを作成した。特に、Matsuta et al. acceptedで集められたがんメタボロームデータ130個のうち再解析可能で、gmt形式ファイルの作成を進めた。

【プロテオーム】
昨年に引き続き、文献調査により、「proteoform (isoform)によって機能が異なるタンパク質・タンパク質ファミリー既知例」10例全ての論文から情報抽出した。この結果、事実上全ての既知例について、遺伝子レベルの「paralog」とタンパク質レベルの「isoform」が区別されていないことが確認された。これは、生化学では遺伝子を考慮せずにタンパク質の類似性のみからisoformを定義してきたからであり、分子生物学がタンパク質のisoformを考慮せずに遺伝子レベルで細胞機能を論じてきた状況の“鏡像”でもある。この調査によって、本格的なデータ処理に入る前に「paralogに由来しない(同一遺伝子由来の)isoform」の概念を確立する必要があることが確認され、また今後は、両者を区別して研究しているCell論文(Yang, X. 2016)を糸口として進める方針が固まった。
【グライコーム】

昨年度に続き、分子セットの構築を検討するためにデータ収集を行った。これまでに集めたがん関連のデータ及びグリコサミノグリカンに関連するデータを収集した。

(2) は、部分的に達成できた。研究代表者はすでにgmt形式の代謝物セット(metabolite set)と入力となる変化した代謝物リストを用いてORA(Over-Representation Analysis)するRパッケージを作成している(未公開)。継続的に当該パッケージの開発を進める。(3)は、本研究期間内では達成するに至らなかった。


015RP2025 中村 和樹

南極氷河において流動速度が速いことで知られる白瀬氷河は、氷河末端周辺に存在する定着氷によって、氷河の流動が抑制されていることが報告されている。白瀬氷河と定着氷の相互作用を明らかにするためには、リュツォ・ホルム湾における定着氷、とくに氷厚の空間分布の理解が必要になる。このことから、本研究は白瀬氷河および茅氷河の流動変動と定着氷の氷厚の関係を調べるため、極夜や天候に左右されないマイクロ波衛星高度計データを用いて、定着氷の氷厚を推定した。

 本研究で使用した衛星高度計はCryoSat-2/SIRALであり、定着氷が海洋に浮いていることから静水圧平衡を仮定することにより氷厚を算出し、スタッキングすることで5 kmのグリッドによる氷厚分布マップを作成した。この評価には、日本南極地域観測隊が取得した海氷コアデータを用いており、本研究の解析期間は第64次および第65次の観測隊(JARE-64およびJARE-65)が現地観測を実施している2022年12月から2023年2月および2023年12月から2024年2月である。氷厚推定に係る静水圧平衡の仮定において、海氷密度に典型的な値である850 kg m–3と、JAREの現地観測による海氷密度の計測結果を用いる場合の2通りにより氷厚を推定し、推定氷厚のRMSEを算出した。その結果、現地観測による海氷密度を用いた場合、典型的な海氷密度を用いた場合と比較してRMSEは小さかったことから、典型的な海氷密度は、リュツォ・ホルム湾においては過大であることが判明した。

 さらに、リュツォ・ホルム湾に流入する氷河と定着氷の相互作用を明らかにするため、南極氷河の中でも流動速度が速い白瀬氷河と、白瀬氷河に次ぐ流出幅を有する茅氷河の氷厚に着目してその変化を調べた。その結果、いずれの氷河も氷床接地線から下流にかけて氷厚が減少していることが分かった。これは、氷河が氷床接地線からリュツォ・ホルム湾へ流入して浮氷舌(棚氷)として湾に滞留することになり、その間に浮氷舌の底面融解が進んだ結果であると考えられた。さらに、2011年〜2025年における各年の氷床接地線から氷河末端までの平均氷厚の経年変化を調べた結果、茅氷河の氷厚はほぼ変化が見られなかったが、白瀬氷河の氷厚は増加傾向を示した。MODISが取得した画像で定着氷の状態を確認した結果、2016年以降は定着氷が崩壊と流出を繰り返していた。このことから、定着氷の不安定化に伴い海洋の熱が大気へ放出されやすくなり、白瀬氷河の浮氷舌下への暖水の流入と底面融解が抑制されて氷厚の減少が低下する一方で、上流からの氷の流出が維持または増加することにより氷厚が増加すると考えられた。


016RP2025 野村俊一

(野村)
・支払備金推計における累計支払額の倍率(LDF)を多変量時系列とした動的因子モデルを提案した。事故発生年度あるいは支払年度に渡る動的因子と、因子が経過年数ごとのLDFに与える因子負荷量を推定することにより、保険金支払プロセスの高速化や物価上昇などを要因とした全経過年数に渡るLDFの系統的な変動を捉えて予測することに成功した。さらに、関連する保険種類間で動的因子の挙動に相関を持たせたモデルも提案し、米国保険会社の個人向け自動車保険と法人向け自動車保険の実データへと適用した。提案モデルは、LDFの系統的変動によりチェインラダー法で生じるバイアスを大幅に軽減できることを実証し、状態空間モデルのシミュレーション手法を利用して最終保険金の予測誤差を評価できることを示した。

・人口動態統計の年齢別・月別死亡者数データを用い、超高齢者の死亡年齢分布を極値理論で分析した。離散的な集計データを棄却法シミュレーションで連続的な擬似標本に変換し、閾値超過モデルを最尤推定で当てはめ、形状パラメータから寿命上限が有限か無限かを検討した。さらに一般化加法モデル(GAM)によりコホート効果も推定した。加えて、COVID-19のパンデミック前(〜2019年)と後(2020年〜)で推定の安定性を比較した結果、形状パラメータは概ね安定して負となり、日本人寿命に有限上限がある可能性が示唆された一方、パンデミック前後で寿命上限やハザード関数(死力)に変動が見られた。

(大塚)
・前研究の「健康寿命および要介護者数の将来推計」(大塚・谷口)では、介護給付等実態調査(厚生労働省)の2009年~2015年の7年間分の実績を用いた要介護認定率の将来推計を行った。その後、データが蓄積され実態も変化している。本研究では、まずデータを最新状況まで反映し、前研究の要介護認定率の将来推計を更新した。次に、算定された要介護認定率の将来推計をもとに市区町村別の介護保険料の将来推計を実施した。そして、推計した市区町村別の介護保険料をもとに、今後の各市区町村の介護保険料の変化と市区町村の格差の状況に関して分析を行った。分析の結果、次のような知見を得ることができた。介護保険料の市区町村の最大値/最小値は2000年に267%であったが、2020年に290%であり、2040年に386%となる見込みで、介護保険料の負担が大きい地域と小さい地域との格差は今後も拡大傾向にあることが見込まれる。また、2040年の介護保険料の上位20のうち10市区町村が大阪府に集中している。加えて、介護保険料の増加率が大きい市区町村は埼玉県、千葉県、茨城県など東京のベッドタウンの市区町村に集中することが見込まれる。

(清水)
・一般化レヴィ保険モデルにおいては、多くの破産リスク計量がスケール関数を用いて表現できることが知られている。このスケール関数の解析的表現に基づき、漸近展開公式を与えるとともに、それに基づく漸近正規推定量を構成した。これらの統計量の導出は、破産確率に基づく統計的リスク評価を行う上で有益である。これらの結果は日本統計学会研究業績賞としても評価を受けている。 ・これまで清水が研究してきた破産リスク解析に加え、新たな死亡率予測モデルに関する成果をまとめたものである。これは、破産理論における数学的アイデアを死亡率予測へ援用して新しいモデルを提案したものであり、従来モデルを上回るデータ解析結果を示している。

(白石)
・COVID-19のような感染症報告データにある報告遅れの現象を考慮した実効再生産数の推定について、状態空間モデルを用いた状態の推定として定式化し、その漸近的性質を導出した。

・ランダムフォレスト(RF)の変数選択に関しては変数重要度という指標を用いることが一般的であるが、分位点フォレスト(QRF)のような一般化されたランダムフォレストに関する変数重要度は通常のRFに対する変数重要度とは理論的には異なる。本研究ではQRFによる変数重要度を定義し、この指標を用いて変数選択を行う計算量を軽減するアルゴリズムを提案した。

・99%分位点のような高分位点に対する推定手法として、Extremal random forest (ERF)という手法がある。この手法は中間分位点をRandom forest(RF)により推定し、これを使って高分位点をパラメトリックに推定する手法だが、高分位点推定量が中間分位点に関するバイアスの影響を受けてしまうという問題点がある。これをネイマン直交化という手法を用いて影響を軽減する手法を提案した。

・Hawkesグラフを基にしたレジーム・スイッチング型点過程モデルにおいて、 混合分布のパラメータの推定および、 レジーム数の推定を行った。 特に、 先行研究のポアソン過程や自己回帰モデルを元にした場合は、 最尤法でどちらも推定を行っているため、 レジーム数の推定においてはパラメータが既知であることが前提になっており、 実用上での困難となっている。 そこで我々は、 ベイズ推論における混合分布のためのFactorized Asymptotic Bayesian Inference という理論を用いることで、 パラメータの推定および、 レジーム数の推定をEMアルゴリズムによって同時に行うこと検討した。


017RP2025 新堀 淳樹

2021年4月に、内閣府・統合イノベーション戦略推進会議によって、「公的資金による研究データの管理・利活用に関する基本的な考え方」がまとめられた。2021年6月2日には、それに基づいて、文部科学省から各研究機関に「研究データ基盤システム(NII Research Data Cloud)を中核的なプラットフォームとして位置付け、産学官における幅広い利活用を図るため、メタデータを検索可能な体制を構築する。(2023年度まで)」とする通知が行われている。この通知には、各研究機関でのデータポリシーの策定や研究データへのメタデータの付与なども含まれており、大学における研究データ管理体制整備が喫緊の課題となっている。

以上のような急激な状況変化を踏まえ、昨年度の共同研究で宇宙地球科学分野のデータに対して、2023年度では
 ①研究分野のメタデータスキーマから一般的・共通的なメタデータスキーマへの変換の実装
 ②共通メタデータスキーマに基づくメタデータの機関リポジトリへの登録
実施したが、2024年度は、この実践を名古屋大学、九州大学に加えて京都大学への展開を検討・実施し、他大学へも適用できるようにスケーラビリティ及び相互互換性を確保した手法の開発を行った。また、各メタデータスキーマのバージョンアップに対応するため、SPASE2.6.1とJPCOAR2.0のメタデータスキーマに対応してマッピングテーブルのアップデートとXSLTプログラムの改修を行った。

 本共同研究の最終年度である2025年度は、本取り組みを信州大学への展開を検討・実施し、宇宙線(ミューオン)データについてIUGONETで採用しているSPASE2.6.1スキーマに沿ってメタデータを作成し、本研究で開発した手法を適用した。その結果、信州大学附属図書館の方で特に問題なくJPCOARメタデータへの変換と機関リポジトリへの登録を我々で作成したツールとその使用マニュアルを参考にしながら自力で行うことができた。このことは、本研究によって開発した手法が他大学へも適用できるようにスケーラビリティ及び相互互換性を確保していることを実証するものである。さらに、異分野データベースへの展開を目指して名古屋大学理学研究科構造生物化学分野の研究室が管理している電子顕微鏡のデータについてメタデータ変換を実施した。このデータのメタデータは、生物物理学分野のデータベース、PDB(Protein Data Bank、日本語版サイト:PDBjもあり)で用いられている国際標準のメタデータスキーマで書かれている。これまでのSPASEメタデータとは大きく記述項目や構造が異なるため、メタデータ変換テーブルを作成する際にデータを管理している先生との議論を行い、Coplilotなどの生成AIを活用しながらテーブル作成作業を進めた。これを基に変換用のXSLTファイルの調整も実施し、PDBメタデータからJPCOAR2.0メタデータへの変換が実施可能であることを確認した。ただし、機関リポジトリへの実装・登録は、JPCOAR2.0スキーマ対応のメタデータ登録システム(JAIRO Cloud)の改修が遅れたため、次年度以降に実施することになった。


018RP2025 金澤雄一郎

(1) Policy Focus & Relevance: This project examines how communication and cooperation between Japan and Canada can be strengthened through understanding how trustworthiness is defined across these two cultures. Understanding not only what builds trust across cultures is essential for preventing miscommunication and building robust bilateral ties, enhancing resilience amid eroding global cooperation.

(2) Why it matters to Japan: January 2026 Eurasia Group reports warn Canada faces acute vulnerability from U.S. policy upheaval under President Trump (CTV News, 2026), while Japan grapples with China tensions (seafood bans, Okinawa exercises) and yen weakness (Eurasia Group, 2026). Canada and Japan are increasingly working together. For example, in early March 2026, Canada and Japan signed an agreement to expand both trade and defense ties (Canada and Japan sign partnership deal on defense, energy, trade - National | Globalnews.ca), further expanding the January transfer agreement on defense and security (Minister McGuinty signs an Equipment and Technology Transfer Agreement with Japan - Canada.ca). In business, the recent activities of Canadian startups such as Renraku Dynamics and Pontosense in Japan, which have been featured on national TV in Japan, demonstrate that the AI tools these companies develop must fully embrace the concept of trustworthiness as understood in the Japanese context. Trustworthiness perceptions across cultural divisions are more complicated than trustworthiness assessments when both parties are from the same culture (Pekerti & Kwantes, 2026) and yet are critical to successful international partnerships (Saunders, 2023).

(3) Trustworthy Assessments and Security Governance: Trust in institutions is closely tied to the perceived trustworthiness of the assessment processes. In regional security governance, expert bodies, research centers, and international organizations produce analyses of threats, vulnerabilities, and resilience strategies. For these assessments to shape policy and behavior, they must be regarded as epistemically reliable and normatively legitimate by policymakers and publics alike. These assessments are often made based on the “face” of the organization, or the trustworthiness of individuals who represent organizations and institutions (Kwantes, Ghadiri & McMurphy, 2026).

(4) Human-centered frameworks to strengthen cooperation between these middle powers: Trustworthiness, defined through latent dimensions such as ability, benevolence, and integrity, is conceptualized and expressed differently in Japan and Canada. Using Latent Dirichlet Allocation (LDA) alongside human coding of the free-form data generated by university students in the two countries about who are trustworthy individuals in various contexts, we compare these core elements of cross-cultural communication and cooperation. We appreciate Professor Maeda’s contribution at the ROIS in strengthening the analysis, especially in deciphering the nuanced Japanese expressions.


019RP2025 Natthawut Kertkeidkachorn

This research develops an automated framework for constructing a causality Legal Knowledge Graph by leveraging Large Language Models (LLMs) and ontology learning. Legal resources, such as the Civil and Commercial Code and Supreme Court decisions, are typically stored in unstructured or semi-structured formats, which limits efficient retrieval and analysis. This study addresses these challenges by transforming legal texts into a machine-readable knowledge graph and discovering causal relationships between legal entities.

Specifically, 1,755 Thai legal document sections were collected and preprocessed, and a seed legal ontology was adopted as the foundation. DeepSeek-R1 was then utilized to automatically extract and expand legal concepts (e.g., Person, Contract) and relationships (e.g., hasSection, isAmendedBy), enabling the construction of a domain-specific ontology for Thai law. Furthermore, a version control mechanism was implemented to represent the evolution of the Civil and Commercial Code across 35 amendment acts, ensuring temporal consistency in legal interpretation. In addition, a causality layer was introduced by extracting “Actions” and “Causes of Action” from court decisions and grouping them using HDBSCAN clustering, allowing the system to link factual circumstances with legal outcomes. In total, the knowledge graph consists of 44 classes, 68 relationships (30 object properties and 38 data properties), and 2,149 individuals.

The resulting knowledge graph was evaluated using 778 Supreme Court cases. Experimental results show that the proposed LLM-enhanced KG improves retrieval performance, achieving a Mean Average Precision (MAP) of 0.489 compared to 0.468 for a baseline model. Moreover, the system supports advanced queries, such as retrieving cases associated with specific legal sections and identifying similar cases based on causality relationships—tasks that are difficult to achieve with traditional keyword-based systems.

Overall, this research demonstrates an effective approach to automating knowledge graph construction in the Thai legal domain, improving legal information retrieval and providing a foundation for advanced AI-driven legal applications. Due to time constraints, we are currently preparing the manuscript and planning to submit the research paper to an international conference.


020RP2025 吉沢 明康

今年度は本課題の最終年であるが、代表者の本務関連の所要時間が大幅に増加したこともあって、本プロジェクトについては申請書にも書いたように作業内容を絞り込んだ。また今年度の作業はもっぱら、「一般ユーザーが利用可能な形に、CGIの特にインターフェース部分を実装する」ための内容になることを予定していた。

 この過程は研究というよりも純粋に(コーディングの)作業になるため、省力化もしくは作業に他の(研究に直接つながる)要素を取り入れたいと考えた。そこで、2025年に(名称とともに)概念が確立したvibe coding、すなわち自然言語でLLMに指示を与えることでコードを出力させる手法を、このコーディング作業に取り入れることを検討することにした。

 この検討で最も役に立ったのは、本予算で参加した国内版バイオハッカソンでのグループ会合である。実際にvibe codingの経験者が複数参加していたため、

  • プロンプトで行う指示は、(インタラクティブに行うよりも)自然言語によるマークダウンで予め書き下ろしておくのが良い
  • ユーザーインターフェースのような”定番”のコーディングについては、vibe codingは実用的なレベルにある
  • コーディングの場合でもハルシネーションの発生は避けられない(したがって人間が後からレビューすることは必須であるし、そのために、自分が確実に使える言語でコーディングする必要がある)
  • プロンプトから指示を与え続けていると、一定のタイミングでLLMが突然、(最初の段階で与えた、その一連の指示の)”前提”を忘れるようになる
といった有益なコメント、及びそれらへの対策案などが得られた。

 これらの知見に基づいて、本年度で予定していた開発にはvibe codingを用いることに変更した。今年、vibe codingに徐々に移行する準備を始めることは、長い目で見ると本課題を含む今後の開発には有益であると考えており、当初計画した開発計画が全体として遅れるとしても、vibe codingに移行することは適切であると判断した。

 最終的に、年度末時点ではCGIインターフェースの完成に至っていないが、来年度以降も(DS-JOINTの補助を受けることなく)このような形での開発を継続することによって、これの完成に加え、(当初は企画していたが、作業可能時間減少が理由で最終的に今年度の計画から削除した)「新規配列を既存のオーソログクラスターにアサインする手法の確立と、それを用いた単遺伝子アノテーション法の改良」についても着手可能であると予想している。

 また、実施した内容は本年度の申請内容から大きく変更することになったが、vibe codingによってツールの開発自体の作業負担を減少させられる見通しであることから、以前より課題審査員から指摘されていた、「オーソログの推定方法をBBH法以外にも拡大するべきである」というコメントに対応する見通しも立った。更に、研究・開発がシステムの構築を主体とするものから変化して比較的低コストで各種の手法を利用できるようになる、と期待されるため、オーソログ推定方法自体の性能比較や、推定方法と系統群との"相性"などを調査する、などの発展的課題が着想された。

 なお本ツール(の原型)を研究のプロトタイプとして用いた熊本大グループの論文は概ね完成しているが、年度内には実際の投稿までには至らなかった。本予算は当該論文のFundingの項目に記載されているが、アクセプトされ次第、改めて報告する。


021RP2025 髙橋 彰

人口減少・少子高齢化の進行により地域コミュニティの基盤が揺らぐ中、地域に蓄積された知識や価値の次世代への継承が課題となっている。また、修景事業においても、過去の景観情報の収集や判断が個別対応に依存しており、行政負担の増大が指摘されている。こうした背景を踏まえ、本研究では、古写真を核としたデジタルアーカイブと対話的学習を組み合わせ、地域資源の共有と活用を図る「コミュニティ・アーカイブ教育モデル」の構築を目指している。

2025年度は、モデル構築に向けて、コミュニティ・アーカイブ(CA)コンテンツの収集・整理・管理手法の検討と、将来世代を対象としたデジタルツールの教育的有用性の評価を行い、その改善点を明らかにすることを目的とした。両地域においては、古写真のデジタル化と同一構図撮影を可能とするアプリケーション「メモリーグラフ(以下、メモグラ)」を活用し、現地での体験的学習と対話を組み合わせたワークショップ(以下、WS)を実施した。研究対象は、岐阜県飛騨市古川町および新潟県佐渡市小木町の二地域であり、前者では中学生を対象とした教育実践、後者では行政職員および住民を対象とした実務的検証を行った。

飛騨市古川町では、中学生を対象に町並み継承に関するアンケートを実施した上で、2段階のWSを行った。第1段階では中学生6名が参加し、メモグラを用いた町歩きを実施し、同一構図写真の撮影と気づきの記録を行った。第2段階では、中学生が作成した質問をもとに地域住民へのインタビューを実施し、世代間の対話を通じて地域の歴史や価値観への理解を深めた。さらに、活動後には成果の共有と振り返りを行い、学習内容の定着を図った。事前アンケートは371名中215名から回答を得ており、分析の結果、地域の語りの重要性に対する認識はあるものの、日常的な会話には十分に結びついていないというギャップが確認された。一方で、学校暦に適合したスケジュールや役割分担と運営フローの明確化などの課題も明らかとなった。

一方、佐渡市小木町では、伝統的建造物群保存地区における修理・修景事業への応用を視野に、メモグラを活用したデジタルアーカイブの構築とその活用可能性を検証した。2段階のWSを実施し、第1段階では、市職員2名、住民団体7名、地域住民16名、専門家1名が参加し、古写真の位置特定および同一構図写真の撮影を通じてデジタルアーカイブを構築し、町並みの変容や地域の歴史について対話を行った。第2段階では、構築したデータを用いて修景案の検討を行い、現地において過去と現在の景観を重ね合わせることで、周辺環境との調和を視覚的に確認し、学習成果として蓄積するプロセスを検証した。あわせて、参加者へのヒアリングや意見交換を通じて、実務への適用可能性と課題の整理を行った。その結果、景観の変遷を直感的に把握できる点や、住民の記憶を補完的に取り込める点が有効である一方で、撮影精度のばらつき、運用負担、個人情報管理といった課題が明らかとなった。

以上のように、本研究では両地域において計4回のWSを実施し、教育および実務の双方の文脈から検証を行った。その結果、古写真とデジタル技術を媒介とした体験的かつ対話的な学習が、地域理解の深化と知識継承に有効であることが示された。また、中学生と行政職員という異なる対象において、目的や効果に差異があることが明らかとなり、対象者特性に応じた教育プログラム設計の必要性が示唆された。さらに、各地域において住民向けの研究報告会を開催し、飛騨市古川町では30名、佐渡市小木町では28名の参加者があった。本研究の成果として、古写真、デジタル技術、世代間対話を組み合わせた手法が、地域資源の継承と活用を両立する有効な枠組みとなり得ることを示すとともに、その課題を整理した。


022RP2025 渡辺健太郎

本研究では、日本におけるABS(Address-Based Sampling)の標本抽出枠構築におけるオープンデータの応用可能性について検討した。本研究課題の背景には、ABSの標本抽出枠構築に伴うコストの問題がある。ABSは主にアメリカの文脈で発展してきたサンプリング手法であるため、日本への応用にあたっては、住所を単位とする標本抽出枠をどのように構築するかという点が問題となる。そこで本研究課題では、オープンデータを利用することで、上記標本抽出枠を安価に構築することができるかを検討した。

当初の研究計画では、従来のABSに用いられていた標本抽出枠をオープンデータで代替するアプローチを構想していたが、国内の住所情報を扱うオープンデータそれぞれの特性について検討を加えた結果、上記アプローチに伴う課題が明らかになった。これは、詳細は割愛するが、日本の住所構造の複雑性の問題等により、既存のオープンデータの組み合わせだけでは、郵送物が到達可能な住所の無作為抽出を可能とする標本抽出枠の構築が困難であったという問題である。

そのため、既に公開されている地域メッシュや緯度経度等の情報を活用するアプローチを採用した。その詳細な手続きについては割愛するが、既存の住居住所情報をベンチマークとした場合に、上記アプローチを経て得られる住居住所の約9割がそれと一致することが明らかになった。以上の結果は、オープンデータによる標本抽出枠の構築およびそれを用いたサンプリングが、一定程度の精度のもとで可能であることを示している。

以上の研究成果は、渡辺健太郎と前田忠彦の連名にて、「地域メッシュと緯度経度座標による世帯の準確率標本抽出」というタイトルで、第80回数理社会学会大会において発表を行った。


023RP2025 Nguyen Le Minh

GDPR-PROLEG was a collaborative initiative to encode selected GDPR provisions into an operational, rule-based framework (PROLEG) and to explore human-in-the-loop, LLM-assisted methods for legal knowledge engineering. The project workshop focused on lawful processing under Article 6, its related rules and exceptions, and the role of general principles in Article 5.

The project’s objective was to formalize core GDPR rules on consent, children’s consent, special categories of data, and research contexts in a way that is transparent, auditable, and maintainable. To achieve this, the team combined doctrinal legal analysis with rule encoding in PROLEG, adopting a default-illegal stance in which consent validity is represented as a cumulative set of conditions. The modeling respected the normative hierarchy (with articles generally prevailing over recitals), relied on expert review of LLM-generated rule drafts, and separated binary logic from graded assessments that require external, case-based reasoning.

During the workshop, the team developed a consent-centric lawful processing rule in PROLEG, treating processing for a specific purpose as an element of consent validity. A structured hierarchy of exceptions and “exceptions to exceptions” was implemented, including parental authorization for children’s consent, explicit consent for special category data, and broad consent for research contexts subject to appropriate safeguards. Article 5 principles were attached as general constraints, emphasizing that the inability to demonstrate compliance may render processing unlawful even where substantive compliance appears to exist. For the associated NLL2FR workshop paper, the scope was deliberately narrowed to consent.

The work highlighted several key insights. The team identified limits of purely binary logic for certain GDPR assessments, including whether consent is “freely given” under Article 7(4), the compatibility test under Article 6(4), and broader considerations of fairness and proportionality. Such issues were considered better suited to external, case-based or factor-based modules, with PROLEG retaining only top-level predicates. The correct treatment of the normative hierarchy was discussed as essential, and the team noted the need for practical thresholds and empirical data that may vary across jurisdictions. In using LLMs, the project adopted and refined strategies for careful prompt design, explicit rationale requests, and iterative re-prompting to address gaps or ambiguities in source coverage.

The workshop delivered a consent-centric PROLEG module accompanied by example tests and public supporting materials to be referenced in the NLL2FR paper. Open resources included a GDPR reference network visualization, made available online (https://huggingface.co/spaces/nguyenthanhasia/gdpr-network-viz). Additional code snippets and prompt templates were prepared for release via the project’s repository upon publication. The project team also outlined follow-up activities. These included exploring funding opportunities for a more comprehensive GDPR formalization and for extensions to additional jurisdictions.

The impact of GDPR-PROLEG spans multiple stakeholder groups. Regulators and auditors benefit from transparent, machine-operational rules featuring explicit exception handling and built-in human oversight. Industry and researchers gain a maintainable compliance backbone that highlights where legal judgment and external reasoning modules remain necessary. At a broader level, society benefits from stronger accountability and explainability in automated compliance checks that are designed to safeguard privacy and fundamental rights.


024RP2025 小林一郎

本研究の目的は、情動はヒト脳内でどのように想起されるのか、また、情動を引き起こした刺激対象の価値はどのような脳内の情報処理で得られるものなのかは未だに解明されていないことに着目し、価値を想起する言語芸術である「短歌」を対象に、短歌を読んだ際のヒト脳内で情動がどのように処理されているかについて解明することである.

研究のアプローチとして、以下の5つのステップを行う.

1) 短歌を読んだ際の脳活動データを対象とする(実験により既に収集したものを用いる).
2) 脳活動収集時に用いた短歌に感情のラベルのアノテーションを行ったものを用意する.
3) 短歌を入力とし、その短歌の感情を予測する深層学習モデルを構築する.
4) 短歌を入力として感情を予測した際に深層学習モデルの潜在層に表現される感情識別のための潜在的意味から、その短歌による刺激下の脳内状態へ回帰するモデル(符号化モデル(Krigeskorte et al.,2011))を構築する.
5) 4)において構築した符号化モデルを用いて短歌を入力とした際の予測脳内状態と、その短歌の感情識別結果から、短歌を読んだ際の脳内状態と想起される感情の対応関係を観察可能にする.

本年度の成果として、2)3)を行った.2)においては、Koide-Majimaら(2020)において定義されている80の感情ラベルを対象にクラウドソーシングによって、短歌に対してそれらのラベルをアノテーションしたデータセットを用意した.3)においては、1)の脳活動データ収集時の刺激となった短歌数が少ないため、それらをそのまま使うだけでは感情識別の精度が上がらないため、英語の感情識別データセットであるGo Emotions(Demszky et al.,2020)のデータセットを一段目のファインチューニングに適用する多段階マルチステップファインチューニングにより、識別精度を向上させる取り組みを行なった.感情識別の実験設定として、80の感情ラベル、Go Emotionsで定義されている27感情から短歌を対象にした23感情のラベル、Plutchikの8感情(Plutchik,1980)を対象にした識別モデルを構築し、それぞれの精度を検証した(詳細は下記に記す業績を参照).

1. Marin Kurokawa, Ichiro Kobayashi, A Study on Emotion Identification in Contemporary Japanese Tanka, The 26th International Symposium on Advanced Intelligent Systems (ISIS2025), Cheongju, Korea, Nov.6-9, 2025.
2. 黒川真琳、小林一郎, 多ラベル分類モデルによる現代日本語短歌の感情識別, 言語処理学会第32回年次大会, 宇都宮, Mar.9-13, 2026.
3. 黒川真琳、持橋大地、小林一郎, 現代短歌のマルチラベル感情分類とその特性解析, 2026年度人工知能学会全国大会, 群馬, Jun.8-12, 2026.


025RP2025 高槻泰郎

本研究の目的は、人文学オープンデータ共同利用センターの市野美夏氏が、立正大学の増田耕一氏らと共に復元を進めている近世日本における日射量のデータと、申請者が髙橋秀徳氏と共に復元を進めている江戸時代の物価データとを突合し、日射量が日本の江戸時代における社会・経済に与えた影響を解析することにある。

(1) 物価データの拡充
国文学研究資料館所蔵「近江国蒲生郡鏡村玉尾家文書」所収の「万相場日記」「大坂相場帳」などより、米・肥料・穀物(小麦・大麦・大豆など)・衣料品原材料の価格などを復元し、研究期間終了時点までに1830年代~50年代を網羅するデータセットを構築した。このデータは、クリーニング作業を経て、しかるべき機関にて電子公開する予定である。

(2) 気象データと物価データの突合作業
受入教員の市野美夏氏、共同研究者の増田耕一氏らと共に国内外での研究発表、論文投稿を進め、Scientific Report誌への投稿を行い、掲載された(業績一覧参照)。また、研究報告の過程で、1830年代の異常気候について、国際比較する国際プロジェクトへの発展可能性も見出されたため、今後の展開が期待される。


026RP2025 塩田さやか

1. 研究の背景と社会的意義
近年のスマートスピーカーやスマートフォンの急速な普及により、音声対話システムはスマートシティやスマートホームの基盤技術として不可欠なものとなっています。しかし、収集される音声データには話者の識別情報や発話内容などの極めて機微なプライバシー情報が含まれており、その保護に関する技術の開発は急務となっています。画像データの匿名化と比較し、時系列データである音声のプライバシー保護研究は未だ発展途上にあり、特に科学的根拠に基づいた攻撃モデルの構築や体系的な評価尺度の確立が不足していました。

2. 本研究の主要な成果:複数秘密鍵による暗号化技術の開発
本年度、申請者は「複数の秘密鍵を用いた音声プライバシー保護法」を確立しました。昨年度までの単一鍵方式と比較し、時系列情報を持つ音声データに対して鍵空間を拡張することで、攻撃者に対する耐性を大幅に向上させることに成功しました。本手法の最大の特徴は、既存の音声処理アーキテクチャや公開済みの学習済みモデルとの高い互換性を維持している点にあります。これにより、システムを暗号化方式に合わせて都度再学習することなく、実用的なセキュリティ層を後付けで実装することが可能となりました。

3. 体系的な安全性評価枠組みと客観的指標の提案
「VoicePrivacy Challenge」等の既存の枠組みに留まらず、より現実的な攻撃シナリオを想定した評価基準の策定を行いました。具体的には、話者性(誰が話しているか)と発話内容(何を話しているか)の両面を同時に秘匿する場合の定量的評価指標を考案しました。大規模音声データセットを用いた実証的分析を通じて、プライバシー保護性能と音声認識精度のトレードオフを客観的に測定できる基盤を構築し、音声データ共有時における安全基準策定方法の考え方について提案し、またその枠組での既存の技術の問題点などを考察しました。

4. 今後の展望と社会実装に向けた取り組み
本研究成果は、音声認識や話者照合といった多様なタスクにおいてその有効性が確認されており、特に音声認識におけるプライバシー保護の有用性についても実証が進んでいます。今後は、DS施設の高度な計算基盤とセキュリティ評価ノウハウを活用し、実環境下でのさらなる検証を進めるとともに、安全な音声インターフェースの普及に向けた技術の標準化と社会実装を加速させていく予定です。


027RP2025 原 雄一郎

本研究の目的は、個人ゲノム解読に用いられるロングリードシーケンシングデータから得られるDNAメチル化情報と、DBCLSが提供するゲノムグラフ解析基盤を組み合わせることで、コピー数獲得遺伝子のプロモーター領域におけるエピゲノム制御の個体差を明らかにし、それをゲノムグラフ上で表現・共有可能な情報資源として整備することである。本年度は、プロモーターメチル化比較解析を行うための情報整備、ならびにパイプラインの構築を行った。

本研究は、2025年8月に公開されたJoGo (Joint Open Genome and Omics Platform) v1.0 データベースに格納されている、日本人を中心とした個人ゲノムデータを対象に行った。ハプロイドゲノムアセンブリならびにゲノムアセンブリに用いられたPacBio HiFiリードデータはHPRC (Human Pangenome Reference Consortium)データベースから取得、ならびに九州大学生体防御医学研究所の長崎正朗教授から提供いただいた。個人ごとに作成されたハプロイドのゲノムアセンブリにHiFiリードをマップし、リードデータに記載されている各シトシンのメチル化(5-mC)スコアをもとに各塩基のメチル化状態を推定した。個人ゲノムはLCL(不死化リンパ芽球株細胞)からDNAを抽出して解読されているため、記載されているメチル化スコアはこの細胞株における遺伝子の転写制御を反映している。

次に、各ハプロイドゲノムでのコピー数が増加した遺伝子を探索した。この探索では、まずヒトリファレンスゲノム(T2T-CHM13)に含まれる類似度が高い(>98%)重複遺伝子を同定し、続いて各ハプロイドゲノムに固有なコピー数獲得遺伝子を同定した。これらのうち、Human Protein Atlasの遺伝子発現データに基づきリンパ球で発現している遺伝子を選択し、それぞれのプロモーター領域に推定されたメチル化率を、同一個体内コピー間・異個体間で比較する解析を現在進めている。本共同研究は、VISC(バリアント情報標準化研究会)の取り組みの一環としても位置づけられ、2026年度以降も引き続きデータの整備を進め、データベースへの記載についての検討を行っていく。


028RP2025 石井 智士

本研究の目的は、空の画像から客観的指標に基づいて雲を自動検出し、その空間分布を時系列データとして整備・公開することである。従来、国内の気象台では3時間ごとの目視観測により雲量が記録されてきたが、2024年3月に東京・大阪を除き廃止された。これは気象レーダーや静止衛星観測の発展によるものであるが、静止衛星の空間分解能は約2 kmと粗く、微細な雲や局所的な天候変化の把握には限界がある。また、目視観測は主観性を伴い時間分解能も低いため、雲の詳細な時空間変動を捉えるには不十分である。このような背景から、地上からの高頻度かつ定点的な観測データの整備が求められている。各地の天文台などでは天気モニタリング用カメラが設置され、空の画像がリアルタイムでWEB公開されている場合がある。これらの画像は主に望遠鏡観測の可否判断のために利用されているが、現状では天候や雲分布は目視により判断されている。本研究では、このように活用の余地が大きい空の画像データに着目し、雲の自動検出および空間分布データの生成・公開を目指す。

2025年度は、上記目的の達成に向け、観測手法に依存しない汎用的な雲検出手法の構築を目指し、天文観測や超高層大気観測で利用される近赤外線カメラ画像に対して、雲の自動検出が可能かを検証した。解析には、申請者が茨城県城里町で運用するOH大気光観測用近赤外カメラの画像データを用いた。日中の雲量推定では、目視で選定した快晴画像を基準とし、太陽天頂角および方位角が近い画像同士で画素ごとの輝度比を算出して輝度比画像を作成した。その結果、雲域は相対的に高輝度として抽出される傾向が確認された。さらに、輝度比画像のヒストグラム解析から、雲量が少ない場合には比が1.0付近に鋭いピークを示し、雲量の増加に伴い分布が広がることが明らかとなった。以上より、近赤外画像においても輝度比とその分布特性を用いることで雲量の定量評価が可能であることが示唆された。さらに、夜間については、2024年度にカラーデジタルカメラ画像に対して星像検出に基づく雲判別手法を確立しており、本研究ではこれを近赤外カメラ画像に拡張した。その結果、星の検出可否に基づき夜間においても雲域を適切に識別できることを確認した。

今後は雲検出アルゴリズムの高度化を進め、過去および今後取得される画像に適用することで、雲の時空間分布データの整備と公開を行う予定である。本成果は、日本気象学会2025年度秋季大会、The 16th Polar Science Symposium、および極域データに関する研究集会Ⅳにおいて報告した。


029RP2025 桂 有加子

本研究では、日本産両生類であるツチガエル(Glandirana rugosa)を対象として、高精度ゲノム基盤の構築および染色体レベル構造解析を目的としたゲノム解析を進めている。ツチガエルは地域集団間で性染色体構成や性決定機構の多様性が報告されており、脊椎動物における性染色体進化およびゲノム構造変化を理解する上で重要な研究モデルである。

本研究では、長鎖シーケンスデータを基盤としてドラフトゲノムアッセンブリを構築し、さらにOmni-C法による染色体コンフォメーション情報を統合することで、染色体スケールでのゲノム再構築を進めている。Omni-Cデータはゲノム断片間の三次元的相互作用情報を提供し、スキャフォルディング精度の向上および大規模構造配置の検証に有効である。本解析により、高連続性を持つゲノムアセンブリの構築が可能となりつつある。

現在までに、主要な染色体に対応すると考えられる大規模スキャフォールド群が得られており、Hi-Cコンタクトマップ上でも明瞭な染色体構造パターンが確認されている。これにより、従来困難であった反復配列領域や構造多型を含む領域の配置精度が向上し、ツチガエルゲノムの全体像把握が大きく進展した。

さらに、本ゲノム基盤を利用し、性染色体候補領域の同定、集団間ゲノム比較、および遺伝子配置の保存性解析を進めている段階にある。特に、性決定関連領域における構造的差異や遺伝子量変化の可能性について予備的な知見が得られつつあり、今後の詳細解析により両生類における性染色体進化の理解に貢献することが期待される。

本研究で構築される染色体レベルゲノムは、日本産両生類の比較ゲノム研究基盤として重要なリソースとなるだけでなく、脊椎動物における性染色体形成、ゲノム再編成、および進化ダイナミクスの解明に資する基盤データとなる見込みである。現在、アノテーション解析および比較ゲノム解析を進めており、成果の体系的な報告に向けて準備を進めている。


031RP2025 佐久間 航也

背景:
本研究ではPDB-Descriptomeプロジェクトにおけるアノテーションの基盤づくりを進めた。本プロジェクトはProtein Data Bank(PDB)に登録された生体高分子立体構造データと、それを報告している文献を密にリンクすることを目指している。

 分子立体構造データは基本的に点群データであり、3次元空間中の原子座標に原子タイプ・残基タイプなどのラベルが紐づいている。一方構造生物学論文は、この点群データの部分集合(部分集合)について言及し、その部分構造の化学的・生物学的な解釈を付与する。すなわち、概念的には構造生物学論文は点群データに対するテキストキャプションをあたえているとみなすことができる。しかし、どの部分集合にどのような言及がなされているかを系統的にデータ化した研究は存在しない。本研究では、特に論文中のテキストにおけるReferring Expressionと、それが指示している座標データのリンク方法が確立されていないことに着目した。

結果:
まず代表者自身により代表論文について人手アノテーションを行い、構造生物学論文における記述単位の分布などを分析した。結果、残基単位よりは大きく、二次構造・ドメイン単位よりは小さな領域についての記述が多いことが示された。したがって、既存の構造領域のアノテーションデータに基づくテキスト処理では十分な領域名・領域定義の抽出が行えないことが示唆された。この点については言語処理学会32回年会で報告を行った。

 この点を踏まえ、構造生物学論文を読解した経験のあるアノテーターにより、人手によるデータ作成プロセスの検討を行った。構造領域の定義については概ねアノテーター間で整合的な結果が得られていたが、逆に言語側の記述の解釈において多く疑問点や曖昧な点が生じていた。このようにアノテーターごとの解釈の差異などの情報を収集できたため、現在これを反映し、アノテーションを整合的に遂行できるようにアノテーションルールの策定を行っている。

 また、これらのすべてを人手で行うことは現実的ではないため、miniBLAHにおいてLLMを用いたin-line annotationについて実験を行った。LLMによるアノテーションにおいて実現すべきスキーマを定義したが、定義を厳密にするとプロンプトが長くなるために明らかな性能低下(そもそも入力文章が不適切に打ち切られるなど)を招くことがわかった。したがって、今後はより簡潔なスキーマを定義する必要がある。これは特にlocal LLMを用いる場合に重要な点である。

 領域定義が論文の図中で提示されている場合に対応するために、VLMを用いたMSAの読解を試みた。領域名の抽出は正確に行えるものの、MSA中の領域範囲を数値的に正確に抽出することは困難であるとわかった。このことから本プロジェクトにおいてHuman in the loop的なアプローチは現時点では不可欠であると結論した。この内容についてはVLMs struggle to extract definitions of structural segments from MSA images: toward the design of a human-in-the-loop annotation pipeline for the PDB-Descriptome projectとして論文報告を行った(DOI: 10.1186/s44342-025-00061-4)。

課題:
今後検討を要する点は (1)1体的な記述に還元できない関係性を内包した広い意味でのREをどのようにデータ化するか(2)原子の座標セットに還元できない記述(たとえば基質結合ポケットなどの「ドーナツの穴」的なもの)をどのようにデータ化するか が挙げられる。これらの点について大規模にアノテーションを開始する前にさらなる精査が必要である。

まとめ:
以上の内容を2025年度中にROIS-DS-JOINTの支援を受けて遂行したことで早期に本プロジェクトの基盤づくりを進めることができた。


032RP2025 優 乙石

課題名 VRを活用した災害気象データの体感システムの開発

本研究課題は、VR(仮想現実)およびMR(複合現実)技術を用いて、暴風雨や吹雪、津波などの災害気象を没入的に体感するシステムを開発し、災害から生命を守るための啓蒙普及活動に寄与することを目的としている。今年度は主に以下の3点についてシステムの開発・実証を行った。

1. 吹雪によるホワイトアウトの撮影と体感コンテンツ化
防水性能を持つ高解像度360度カメラ(Insta360 X4)を用い、冬季の蔵王山頂および山形市内において吹雪によるホワイトアウト現象の撮影を実施した(2026年1月30日)。猛吹雪で数メートル先も見えず、暴風の音により会話も困難となり、方向感覚を喪失する様子を映像に収めた。今後はこのような動画をVRによって没入的に体験できるコンテンツを作成する。

2. 現実環境のデジタルツインと豪雨のVR化
見慣れた現実環境上で災害を体験できるように、前橋工科大学キャンパスの一部分について3Dデジタルツインモデルを構築した。汎用ゲームエンジンUnityのグラフィックス機能とパーティクルシステムを活用し、これらの3Dモデル空間内に仮想の豪雨を降らせるVRシミュレーション環境を実装した。

3. 複合現実(MR)を用いた浸水シミュレーションの実装
Meta Quest 3のビデオシースルー機能(現実空間の映像と仮想空間の融合)を用い、ユーザーが実際にいる室内環境での浸水シミュレーションを実装した。汎用ゲームエンジンUnreal Engine 5のブループリントを用いて開発を行い、以下の機能を実現した。

①シーンモデルの活用: ユーザーの周囲の幾何学的情報(壁や床の形状・位置)をシステムに認識させ、現実の空間構造に合わせた水の挙動(水位の上下など)を再現した。
②ハンドトラッキングと物理演算: コントローラーを用いず、ユーザー自身の「手」を認識させるハンドトラッキング技術を導入した。手に対する衝突判定を付与し、VR空間内での物理シミュレーション(現実の机に仮想の物体を置くなど)を可能にした。

これらの開発により、既存の動画ストリーミング視聴にとどまらない、インタラクティブでより現実感の伴う災害気象体感システムの基盤が構築された。


033RP2025 大塚 道子

本研究では、琵琶湖における波浪予測モデルの妥当性を、観測データおよびデータ駆動型手法により検証することを目的として研究を実施した。

まず、長期間(2007-2024年)の水資源機構の自動観測所(安曇川沖・雄琴沖)の風と波高データを用いて、琵琶湖における波浪の特性を分析するとともに、気象庁の沿岸波浪数値予報モデルとの比較解析を行った。その結果、強風時の波浪発達過程やピークの再現性に関して、海洋を対象とした既存のモデルの設定では、解像度の粗さや物理過程の表現、高周波域の取り扱いの設定などに課題があることが明らかになった。

次に、波浪予測モデルとして、SWANおよび気象庁波浪モデルを対象に改良および検証を行った。琵琶湖特有の地形・スケールを考慮した設定の調整を行い、観測データとの比較により評価した結果、再現性の向上がみられた。また、両モデルについてそれぞれ再現特性や適用上の留意点を整理した。成果の一部については学会において発表を行い、データ解析結果およびモデル検証の知見を共有した。

さらに、琵琶湖における現地観測強化の一環として、滋賀大学の屋上に定点カメラを設置し、湖面の映像を自動取得するシステムを構築した。これにより、波浪の面的な状況を継続的に記録する基盤を整備した。取得した映像に対して、OpenCVを用いた画像解析を試行し、波高推定、白波抽出の処理について複数事例で検討を行った。


034RP2025 池原 実

本研究の主要な目的は、南極海などで得られた堆積物コアの各種デジタルデータの取得とデータベース化、およびその公開システムの構築である。そのため、以下の項目を実施し成果を得た。

昨年度実施した南極海の堆積物コアの基礎情報(採取位置、水深など)、および、デジタルデータ(コア断面イメージ、X線CTイメージ、帯磁率データ、地球化学連続データ等)の集約に加えて、それらのコア基礎情報をADS(北極域データアーカイブシステム: Arctic Data archive System)にデータベース登録するための必要情報とデータ形式などについて複数回の打合せを実施し準備を進めた。

南極観測で採取した湖沼コア等の非破壊計測とサンプリング作業を高知大学で実施し、新たにコアのデジタルデータを取得した。

2026年2月12-13日に「極域堆積物コアの統合データベース構築とAI解析手法開発ワークショップ」と題する共同利用研究集会を高知大学海洋コア国際研究所にてハイブリッド形式で開催し、12件の話題提供と議論により、本研究に関連する情報収集と進捗状況の確認を行った。参加者は59人(現地参加23人、オンライン参加36人)であり、うち35才以下の若手が約半数を占めた。

2026年3月18日にハイブリッド形式で開催された極域データサイエンスに関する研究集会 IVにて、本課題の進捗状況について報告(南極堆積物コアの統合データベースの構築・公開と活用策の検討)した。

ADSに「堆積物コアデータベース(南大洋)」を設置し、本研究で準備した南極海コアの基礎情報のデータベース化と公開を行った(2026年3月)。データベース登録された堆積物コアは、高知大学で保管されている南極海のコア(リュツォホルム湾、トッテン氷河沖含む)、南極観測事業で取得された南極湖沼コアなど48地点である。今後は、他機関で保管されている南極海の海底コアのデータベース化と公開を順次進めて、コミュニティに利活用されるデータベースとしていく。


035RP2025 門叶冬樹

本研究は、地球に入射してくる高エネルギーの宇宙線が地球大気と衝突して生成する宇宙線生成核種Be-7の長期連続観測データの整備によりデータセット化を進めてデータ解析環境を整え、太陽活動による変動について調べることを目的としている。宇宙線生成核種Be-7は主に大気上層の圏界面で生成されエアゾルに付着して地表に降下して来る。観測は地表にエアーサンプラーを設置して大気を吸引して大気中浮遊塵をろ紙に日単位で捕集し、ゲルマニウムガンマ線検出器により核種分析しBe-7の放射能を測定している。本年度は以下のように研究を進めた。

高緯度および低緯度における連続観測のデータセットの更新蓄積:

図1は、高緯度(64.5度)アイスランドデータセット(2003年からの約24年間の時系列データ、データ数2155)と低緯度(13.1度)タイバンコクデータセット(2014年からの約12年間の時系列データ,データ数1686)であり太陽黒点数の推移とともに示している。現在まで順調に連続観測データが得られておりデータセットの更新蓄積を進めた。

高緯度および低緯度のBe-7データセットの比較:
図2に示すように高緯度および低緯度のBe-7濃度は同様な正規対数分布をしている。このことは、高緯度と低緯度の圏界面高度は約9.5kmと16.5kmと異なっているが、Be-7が付着するエアロゾルのサイズ分布は大きな差異は無いことを示唆している。

時系列解析手法開発:
東京都市大学データサイエンス研究室との共同研究によるデータ解析も進めた。図3にFFT解析により検出されたタイデータの27日信号成分を示す。

4.今後の研究
再解析データセットに対して、フーリエ変換、ウエーブレット解析等により太陽活動周期の信号応答を調べる。データベースの管理・公開について検討も進める。


036RP2023 箕輪昌紘

本研究課題は,南極氷床の氷厚や氷床基盤地形,氷床内部層を測定する重要な手法である氷レーダーによるデータ取得,データ可視化,データ解析手法を確立することを目的とするものである.汎用性の高い氷レーダーによる一連の技術を開発することで,人力やスノーモービル,ヘリコプター,無人飛行機といった多様な観測基盤により南極氷床において基盤地形,氷厚,内部層に関するデータを取得,解析,データ公開を実施する.ソフトウェア,ハードウェア共にオープンソースとし,公開をする.蓄積されたデータにより,氷河氷床変動メカニズムの理解に貢献するものである.初年度,次年度に開発を進めた氷レーダーとソフトウェアについて,より大深度での運用を目指し,送信機やアンテナの改良を行う.また,パルス圧縮技術を実装しより明瞭なデータの取得を目指す.初年度に取得したデータやヒマラヤや南米の氷河でのデータ取得を行い,取得したデータの解析手法の開発を行う.マイグレーション処理や減衰率の補正といったデータ処理方法の実装や基盤標高や内部構造線の自動抽出を実施する.

ハードウェアについては,新規で送信アンプ,受信アンプ,アンテナを準備し,広帯域かつ高利得なレーダーシステムを構築した.ソフトウェア開発においては,SDR(ソフトウェア無線)のAPIを活用し,信号生成からGNSS同期,データ出力までの一連のプロセスを統合した.特に本年度は,FPGA上でのリアルタイム積算処理エンジンを独自に実装.これにより,PCの演算リソースを消費することなく,高速移動中(UAVやヘリ等)でも高密度なデータ取得が可能となった.また,取得データはPythonによるGUI上でリアルタイムに波形解析が行われ,現場での欠測確認や観測精度の評価を即座に実施できる環境を整えた.開発したハードウェアやソフトウェアの情報は,成果物としてコードレポジトリサイトにおいて発表している.

 開発したシステムの有効性を検証するため,南極,ヒマラヤ,南米パタゴニアの氷河で実地試験を継続的に実施した.その結果,陸上移動においても,氷床深部の内部構造を鮮明に捉えることに成功し,ハードウェア・ソフトウェア両面での実用性が確認された.今後は,これまでの試験で得られた知見をフィードバックし,UAVやヘリコプターといった空中プラットフォームにおける運用をさらに最適化することで,より広域かつ高効率な氷床変動観測体制の構築を目指す.

https://forms.gle/fUE8KbF9MoE9cANUA


036RP2025 寺内 菜々

遊泳細胞が走光性を示す褐藻類を含むstramenopile生物では、褐藻類で同定されている青色光受容体(helmchrome)、葉緑体内の眼点(eyespot)、後鞭毛の基部が膨張した細胞構造(paraflagellar body, PFB)が機能的に連携した”helmchrome-eyespot-PFB system”が走光性の重要な基盤であると考えられている。

これまでの離散値系統プロファイル法を基にした解析では、helmchromeと共進化関係がある19個の遺伝子群が検出されている。今年度は、当初の計画通り、改変版の連続値系統プロファイル法(Normalized Phylogenetic Profiling, NPP)を適用し、helmchromeと共進化関係がある遺伝子群を探索した。ゲノムデータとしては、遊泳細胞が走光性を示す種、示さない種を含む34種(褐藻: 33種、祖先的姉妹系統:1種)を用いた。その結果、helmchromeと統計的に有意な(z-value > 2)プロファイルの相関を示す遺伝子群が466個検出された。これらの遺伝子群には、本プロジェクトのこれまでの解析で実施した離散値系統プロファイル法で検出された遺伝子群が含まれていた。この内、2個の遺伝子については、本プロジェクトにおいて、前鞭毛および、helmchromeが強く局在し走光性に関係する細胞構造であると考えられているPFBに局在することが実験的に示された。また、helmchromeと強い相関が見られる上位(z-value > 3; 61 genes)の遺伝子群には、鞭毛軸支構成タンパク質およびその翻訳後修飾に関係すると推定されるものや、本プロジェクトにおける褐藻MutimoおよびHormosiraの雄性配偶子・精子の鞭毛プロテオーム解析で同定されているものが複数含まれていた。以上から、離散値系統プロファイル法と連続値系統プロファイル法を補完的に適用することで、さらなる褐藻類の走光性関連候補遺伝子群を絞り込むことができたと考えられる。PFBに局在する走光性関連遺伝子の同定については、学術論文として英文ジャーナル誌に投稿した。将来的には、より大規模なゲノム情報の導入や、orthology推定法の再検討、他の多層オミクスデータの導入により共進化解析の精度を改善する余地があるものと考えられる。今後は、本研究で抽出された遺伝子間の共進化ネットワーク解析による機能モジュールの推定や、stramenopile全体におけるより大規模かつ多階層の共進化解析、褐藻類における候補遺伝子の破壊株の作出を適用することで、”helmchrome-eyespot-PFB system”の中心要素の同定に挑戦したいと考えている。


037RP2025 栂 浩平

ゲノム上には、途中に終止コドン(未成熟終止コドン)が挿入された"短いタンパク質"をコードする遺伝子が存在し、これらは一般的に機能喪失遺伝子とみなされてきた。しかし近年、こうした機能喪失遺伝子が生物の適応進化において重要な役割を果たすことが明らかになってきている。データベースによっては、読み枠のずれに起因する未成熟終止コドンの出現をシーケンスエラーと判断し、修正した遺伝子モデルを掲載している場合がある。このようなデータベース間の遺伝子モデルの解釈の相違は、ゲノムを利用する幅広い研究分野に混乱をもたらすと予想される。NCBIにおいて遺伝子モデルが修正された場合、翻訳されるタンパク質には LOW_QUALITY_PROTEIN(LQP)タグが付与される。本研究では、LQP遺伝子の存在規模を把握するとともに、遺伝子モデルの修正の妥当性を定量的に検証することを目的とした。

LQP遺伝子はNCBI Geneにおいて一部の分類群(2.5%)に認められた。修正の種類には挿入・欠失・置換が含まれ、挿入が最も多かった。1塩基の挿入・欠失・置換による修正が大多数を占めるが、2塩基以上の修正が生じる場合もあった。修正の妥当性を検証するため、RNAシーケンスリードをゲノムにマッピングし、RNAとゲノムDNAの塩基配列の一致性を確認した。2つのLQP遺伝子において複数種で検証した結果、修正を支持するRNAシーケンスリードは検出されなかった。今後は、LQP遺伝子の存在とその信頼性の精査を継続し、LQP遺伝子の構造・機能研究の促進を目指す。


038RP2025 川畑拓矢

本研究では、アンサンブルカルマンフィルタ(EnKF)およびアンサンブル特異ベクトル法(EnSV)をそれぞれ一般化し、降水現象の高度な要因解析を可能とした。

まずTsuyuki (2024)に基づいてEnKFの一般化を行った。これは局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)と観測摂動法によるアンサンブルカルマンフィルタ(PO-EnKF)を特別な場合として含む。さらに、観測空間における予報誤差共分散行列の固有値分解から得られる各モードの重みパラメータを適応的に最適化するために、相互情報量を利用する方法を開発した。具体的には、確率変数XのエントロピーをH(X)とするとき、等式H(X)-H(X|Y)=H(Y)-H(Y|X)が成り立つように重みパラメータの値を決定する。計算を高速化するために、各モードのアンサンブルのヒストグラムからエントロピーを算出するためのlookup tableを作成した。大気の非線形性を簡略に表現したLorenz-96モデルと非線形観測演算子を用いたデータ同化実験を行った結果、LETKFやPO-EnKFより高精度な解析ができることがわかった。今回の方法によって、ガウス近似の制約下ではあるが、従来より高精度なEnKFによる非線形データ同化が可能になると期待される。

次に、前年度に提案した「4次元一般化アンサンブル特異値(4DEnSV)」解析手法における評価指標の設計に着目し、時間変化の感度解析を高度化した。特に、防災の観点から重要である大雨ピーク時刻のずれに注目し、その要因を抽出可能とする新たな評価指標を提案した。本手法では、どのような初期の違いが時間的なずれを引き起こすかを体系的に特定できる枠組みを構築した。本手法の検証には、Lorenz-96モデルを用いた。その結果、本手法により抽出された初期値の違いは、設定した評価指標に対応する形で時間発展し、ピーク時刻のずれを再現することが確認された。以上より、提案手法が時間変化の要因を適切に捉えることを示した。

今後は、線状降水帯のような非線形現象に対するアンサンブルデータ同化により得られたアンサンブルシミュレーションを用いて、現象の発生あるいは継続した時刻・時間に対する要因解析を行っていきたい。


039RP2025 大嶋晃敏

本報告書では、高エネルギー宇宙線から生じるミューオンを用いた宇宙天気研究と、それを支えるデータ解析基盤の構築について報告する。宇宙天気は、太陽フレアやコロナ質量放出(CME)、高速太陽風などの太陽活動に起因する、地球近傍空間の擾乱を示すもので、人工衛星の障害、GPS精度の低下、電力網障害など、近年ますます現代社会に重大な影響を及ぼす現象になりつつある。そのため、宇宙天気の高精度な観測と予測技術の開発は重要な研究課題と認識されている。

本研究の背景となる成果は、宇宙線ミューオンを利用した新たな宇宙天気観測手法(高エネルギー宇宙天気)の確立である。100GeV領域の高エネルギー宇宙線から生成されるミューオンを地上で観測することで、惑星間空間磁場(IMF)や太陽活動による地磁気擾乱の影響を広範囲に捉えることが可能となる。特にGRAPES-3実験では、放射線検出器である比例計数管を多数配置した大規模ミューオン検出器により、ミューオンの到来方向を169分割で同時観測を実現し、宇宙線強度の空間分布を高精度に可視化することに成功している。この多方向観測により、CMEに伴うショック構造やフォルブッシュ減少、プレカーサー異方性などの宇宙天気現象を捉えることができる点は重要な成果である。

また、日本とインドにおける観測拠点を活用した国際共同観測により、広域的かつ同時的な宇宙線観測が実現できた。これにより、宇宙線強度変動の空間構造を詳細に解析できるようになり、宇宙天気現象の理解が一層進展した。さらに、長期観測データに基づき、宇宙線強度変動と太陽風速度の相関や、宇宙線の密度勾配などの物理量が導出され、惑星間空間における宇宙線輸送過程の理解に貢献している。また、突発的な宇宙線バースト現象の検出や、その時間遅延特性など、高精度高分解能観測特有の新たな観測事実も得られている。

これらの研究を支えるための大規模データ処理基盤の整備が、本研究の重要な成果である。GRAPES-3実験では年間数10TB規模、20年間の累積で数百TBに及ぶデータが生成されるため、高速ネットワーク(Infiniband)や分散ファイルシステムを用いた高性能計算機環境が構築された。今回、本研究予算で購入した新型計算機3台をこれに導入することにより、国内外の共同研究者が利用可能な高性能解析プラットフォームが実現され、効率的なデータ解析が可能となった。

以上のように、本研究は宇宙線観測技術とデータサイエンスを融合させることで、宇宙天気の観測・解析手法を高度化し、基礎物理および応用分野の双方に重要な成果をもたらしたものになっている。今後は、深層学習やAI技術を活用した解析手法の導入により、宇宙天気の予測精度向上への展開が期待される。


040RP2025 加藤 千尋

本年度,南極昭和基地の中性子計での観測に検出時間間隔分布を加える改良を行った。検出時間間隔分布を用いて宇宙線スペクトルの変動を調査する手法が公表されており,このデータを用いた解析からもGMDN(Global Muon Detector Network)による解析結果の裏付けを得ることが可能となる。また,中性子計とミューオン計のデータからスペクトル変動を推定する手法も考案されており,重層的に結果の確認が可能となった。後者の手法はスペクトル変動をリアルタイムで推定することが可能であるため,モニタリングに用いることも視野に入れてデータを蓄積,解析中である。計画していた新規PCの変更導入に関しては,観測装置との接続に不具合が生じ,現地での原因特定と修復が困難であったために,持ち帰って調査することとした。次年度に再度入れ替えを試みる予定である。取得データを用いた解析においては,2024年度に起きたイベントに関するGMDNデータを用いた解析結果をEPSに投稿,公表された。本年度もフォーブッシュ減少が複数発生しており,現在解析を進めている。その他,IUGONET (https://search.iugonet.org/metadata/001/00003723) や信州大学の機関リポジトリへの登録も進んでいる。


041RP2025 賀茂 道子

本研究は、日本人の意識形成に影響を与えてきた歴史的背景および社会構造について、歴史的に異なる経験を有する沖縄と日本本土を比較対象とし、とりわけ「ジェンダー平等」に関する意識に着目して検証するものである。分析にあたっては、「日本人の国民性調査」の計量分析に加え、新たに実施した調査および文献資料に基づく歴史学的検討を組み合わせた。

先行調査として、1975年刊行の『日本人の県民性』では、男女の能力差に関する設問において、沖縄県は能力差が小さいと認識する傾向が最も強い地域とされている。この傾向は「日本人の国民性調査」においても確認され、2013年時点まで沖縄では男女の能力差を否定する回答割合が相対的に高かった。

本研究では、こうした背景について二つの仮説を設定した。第一に、沖縄戦による人口構成の変動、とりわけ男性比率の低下が女性の社会進出を促し、ジェンダー意識に影響を与えたとする仮説(仮説A)。第二に、ノロに代表される女性中心の祭祀文化や門中を基盤とする親族共同体の結びつきが、性別役割認識を相対化したとする仮説(仮説B)である。

これらを検証するため、2026年1月にインターネット調査(全国2000名、うち沖縄500名)を実施し、年齢・性別・地域を統制して分析した。その結果、男女の能力差に関する認識については、沖縄で女性のコミュニケーション能力等を高く評価する傾向が一部に見られたものの、過去調査で確認されたような明確な地域差は認められなかった。他方、職業に対するイメージには顕著な差異が見られた。沖縄では、経営者を含む各職業において性別による固定的役割認識が弱く、「社長」として女性を想起する回答が相対的に多かった。とりわけ看護師や介護士といったケア職においても性別役割意識が弱い点が特徴である。これは「能力認識」と「役割イメージ」が異なる次元に属する可能性を示している。

さらにインタビュー調査では、女性の社会進出が進んでいるとの認識がある一方、日常的な慣行レベルでは男性優位的価値観が残存しているとの指摘が得られた。すなわち、表層では平等志向が進展する一方、深層では不平等が持続するという意識構造の二層性が示唆される。

以上から、女性の社会進出と職業における性別役割認識の弱体化は、少なくとも沖縄において相関関係を有する可能性が高いと考えられる。ただし、その因果関係やメカニズムについてはなお不明な点が多く、沖縄の歴史的・文化的背景との関連を含め、今後さらなる検討が必要である。


042RP2025 蟻坂竜大

本研究では、ADRにおける争点検出および解決案提示の合理化を目的として、当事者間の主張および主張間関係を抽象議論フレームワークとして表現し、さらに当事者のinterest構造を束(lattice)として整理する統合的モデルを提案した。

提案手法では、各interestに関連する議論構造を抽出し、それぞれのinterestについて妥協可能性を評価することで、解決案として有効となり得るinterestを特定する枠組みを構築した。この際、束構造に基づくinfimumおよびsupremumの関係を活用することで、interest間の包含関係や調整可能性を形式的に捉えることが可能となった。

さらに、提案手法の有効性を検証するため、騒音に関する紛争(マフラー問題)を対象としたケーススタディを実施した。当事者の主張関係をモデル化し、interestごとの分析を行った結果、対立が強く妥協が困難なinterestと、調整可能性の高いinterestを体系的に区別できることが判明した。

また、抽出された妥協可能性の高いinterestを入力として、大規模言語モデルを用いて自然言語による仲裁案の生成を試みた。結果、形式的に導出されたinterestに基づく具体的な解決案を提示できる可能性が示された。

以上の結果から、提案手法はADRにおける争点整理および解決案提示の合理化に寄与することが示唆される。本研究の成果については論文化して国際会議およびジャーナルへ投稿していく。


043RP2025 浅利 晴紀

本研究では、地磁気短周期変化の客観的かつ高精度な自動判定を目的とし、統計的特徴量および時系列特徴を用いた機械学習モデルの有効性を検証した。地磁気観測所においては、地磁気変動の常時監視や地磁気嵐の把握が社会的影響評価の基盤となることから、観測業務を支援することを念頭に、迅速かつ再現性のある判定手法の開発とそのシステム実装が求められている。本年度の調査では、2011年以降に取得された地磁気観測データのうち、主として毎時値(1時間平均値)を用い、地磁気嵐に関して以下の三点について重点的に検証を行った。なお、参照した地磁気嵐のカタログは、地磁気観測所ホームページの「月別データ表示」より取得可能である(https://www.kakioka-jma.go.jp/obsdata/dataviewer/ja)。

① 地磁気嵐の発生有無判定 地磁気嵐判定については、三値分類(静穏・擾乱・地磁気嵐)と二値分類(地磁気嵐/非地磁気嵐)を比較した。その結果、三値分類ではクラス間の境界が曖昧となり、地磁気嵐の見逃しが無視できない水準で発生した。一方、目的を地磁気嵐検知に限定した二値分類では、不均衡データへのウェイト補正および閾値調整により精度が大幅に改善し、Dst指数およびK指数が支配的な特徴量として抽出された。これらは物理的知見とも整合的であり、観測業務への実用適用性も期待される。

② 地磁気嵐タイプ(急始型・緩始型)の判定 地磁気嵐タイプの識別については、特徴量ベースの手法に加え、時系列分類手法(DTW、miniROCKET)を適用した。比較の結果、miniROCKETを用い、観測期間の前半20%に限定した1時間足データにおいて最も高い精度が得られた。これは、急始型と緩始型の差異が初期応答(初層)に強く現れるという物理的特性と整合する。一方、1分足データではサンプル数不足に起因する過学習が顕在化した。

③ 地磁気嵐内部のフェーズ判定および変化点(頂点)予測 地磁気嵐内部のフェーズ分類および頂点予測については、隠れマルコフモデル等を用いて検証したが、現行データセットでは実務要求を満たす精度には至らなかった。観測波形が必ずしも典型的な構造を示さないこと、ならびに学習データ数が限定的であることが主因と考えられる。

以上より、本研究は①地磁気嵐発生有無判定、および②急始型・緩始型判定については高い実用性を示した。一方、③フェーズや変化点の高精度同定にはデータ拡充が不可欠であることを明らかにした。また、ここまで判定アルゴリズムの検証に主眼を置いたため、システム実装には至っていない。今後は③の改善に向けて対象期間の拡張や追加観測量(衛星データ等)の導入により判定精度の向上を図るとともに、本研究で実用性が確認された手法を基盤として、システム構築に取り組むことが課題である。


044RP2025 土肥栄祐

本研究では、日本語の臨床症例報告を対象に、症状、時間経過、重症度などの臨床情報を構造化し、症例間で比較・解析できる基盤の構築に取り組みました。 臨床現場では、症状や所見が「いつ出現したか」「どのように増悪・改善したか」といった時間的変化が、疾患理解や診断推論において重要です。しかし、既存の医療データ構造化は診断名や検査値などの静的情報にとどまることが多く、時間軸を含む症例データを標準的に整理・比較する方法には課題が残されていました。

本年度は、指定難病を含む日本語症例報告PDFを約1,000件収集し、そのうち623件を構造化テキスト化しました。さらに50症例について、大規模言語モデル(LLM)とHPOなどのオントロジーを活用し、症状アノテーション、時間表現抽出、重症度推定を実施し、結果、1,175件のHPOアノテーション、1,008件の時間表現を抽出しました。 また、50症例について、症例間類似度を1,225ペアで計算し、症例同士の臨床的な近さを定量的に比較するための基盤を整備しました。これにより、日本語症例報告を単なる自由記述ではなく、時間経過を含む解析可能な臨床データとして扱うための実装基盤を構築しました。

本研究の特徴は、日本語、稀少疾患、症例報告、時間情報、重症度という複数の要素を統合的に扱う点にあります。特に、症状の有無だけでなく、発症時期、経過、重症度を含めて整理することで、診断困難例や稀少疾患における症例比較、類似症例検索、疾患理解の高度化につながる可能性が示唆されています。 さらに、陰性所見の記載状況にも着目し、鑑別診断の網羅性や症例報告の記載品質を評価するための新たな指標の検討も行いました。これは、臨床推論の過程を症例報告から定量的に捉える試みであり、今後の医療データ利活用に向けた重要な発展性を持ちます。 一方で、LLMによる重症度推定には一定の偏りが認められており、今後は臨床医による二重アノテーションデータを整備し、妥当性検証と補正を進める予定です。今後は、対象症例数の拡大、RDF化、国際標準との連携、症例間類似度解析の高度化、ローカルLLM環境での自動アノテーション精度向上を進めていく予定です。


046RP2025 杉浦幸之助

日本南極地域観測隊は,南極氷床表面における堆積量および堆積システムの把握を目指して,近年,沿岸部から内陸のドームふじに至る4地点において,自動気象観測装置(Automatic Weather Station:AWS)による観測を開始した.AWSには積雪深計が搭載されており,雪面高度の上昇および下降を連続的に観測している.氷床表面の堆積は,降雪による直接的な堆積と,地吹雪による堆積の再配分によって形成される.本来,これらの過程を分離して堆積変動を理解する必要があるが,観測データに基づいて検討した研究例はこれまで限られている.

 そこで本研究では,AWSに搭載された積雪深計のデータを詳細に解析した.その結果,雪面レベルの変動には,ステップ状の上昇,パルス状の変動,および暖候期に見られる緩やかな沈降という三つの特徴的な変動が認められた.雪面高度の上昇は主としてステップ状の変動によってもたらされており,ステップは総観規模擾乱に対応していた.一方,パルスは吹雪活動に,暖候期における緩やかな沈降は昇華過程に関連していることが示唆された.総観規模擾乱に伴う年間積雪深は,スノーステークによる観測値と比較して大きな値を示したが,その差異は主として暖候期における昇華による積雪損失によって説明することができる.

 南極域における降雪は,年に数回発生する総観規模擾乱によって集中的にもたらされる.このような擾乱時に堆積が生じると考えられる一方で,強風を伴うため,降水の一部は地吹雪として別の地点へ輸送される可能性が高い.今後,AWS各地点における雪面レベル変動をさらに詳細に解析することにより,当該地点での降雪による堆積,別地点へ地吹雪として輸送された堆積,あるいはAWS地点での削剥といった各過程を個別のイベントとして特定できることが期待される.


047RP2025 鈴木 香寿恵

降雪粒子の形状・サイズの時間変化は,雲物理過程や降雪特性を理解するうえで重要である。一方,従来の連続撮影装置には設置場所の制約,撮影条件の調整,観測後のデータ回収,および大量画像の解析という課題があった。本研究では,現地で逐次データを確認できる可搬型の雪結晶自動撮影システムを構築し,取得画像を用いた深層学習による雪粒子の識別・数え上げにつなげることを目的とした。

観測装置は,ベルトコンベア,カメラ,LED,温湿度・気圧・熱電対センサー,ヒーター,Raspberry Pi,slee-Pi,モーター制御部を小型筐体に統合した。AC電源接続により自動撮影を開始し,「待機→ベルトコンベア稼働→撮影」を一定間隔で繰り返す。有線・無線LAN経由で画像をサーバおよびNASへ送信できるため,観測現場に常駐しなくても記録状況を確認できる。装置サイズは概ね縦48×横22×高さ20 cm(立脚時38 cm)で,1台あたり約8万円の低コスト化も実現した。

2025-2026年冬季には,神奈川県足柄上郡,静岡県駿東郡,福井県坂井市で観測を行い,アラレ,牡丹雪,針状結晶,六花,樹枝状結晶など,降雪中の卓越粒子形態の変化を高時間解像度で記録した。特に2026年2月7-8日の神奈川県足柄上郡の事例では,針状結晶主体から六花,樹枝状結晶が重なった雪へ遷移する様子を確認できた。

画像解析では,図鑑からスキャンした計1,744枚の雪結晶画像をグローバル分類に基づき整理し,DenseNet121による単一雪結晶の分類モデルを構築した。最終モデルでは検証精度0.8591を得ており,単一粒子の形状分類には一定の見通しを得た。一方,実観測画像には複数粒子が同時に写るため,YOLOによる物体検出で雪結晶をbboxとして局在化し,切り出し画像をDenseNet121に入力する実装方針を検討した。YOLO訓練用アノテーションについては,OpenCVによる二値化・輪郭抽出で中心座標を推定し,Segment Anything Model (SAM) により粒子形状とbboxを抽出するハイブリッド処理を試行した。

観測機については,画像の上下で照明が不均一になる点,ストレージ容量超過による欠測,周辺部のピント,開口部付近への積雪や融解水の影響,さらなる軽量・小型化が課題として明らかになった。今後はLED配置と背景の均一化,サーバ転送後の自動削除,レンズおよび外装設計の改良を進める。解析面では,実観測画像に対する検出・分類・数え上げを一連の流れとして整備し,降雪粒子の時系列変化を定量化する。これにより,降雪現象の現地観測とデータ駆動型解析を結びつける基盤を形成する。


048RP2025 吉見 憲二

社会における数理・データサイエンス・AI人材へのニーズの高まりを背景に、小学校からのプログラミング教育必修化や GIGAスクール構想、教科「情報」の必修化と共通テストへの追加など、近年次々と教育現場での新しい取り組みが始まってきている。AIの台頭に代表される超高度情報化社会ではこうした動きは不可避である一方で、教育を受けてこなかった世代が独学での対応を余儀なくされるなど、将来的にネガティブな影響が生じてしまうことが危惧される。著者らはそうした問題意識から2024年度に大学生を対象とした調査を行い、「高校在籍時の教科「情報」から段階的に学んでいない学習者を対象とした場合、単に公開教材を充実させるだけでは不十分であり、前提知識の不足を想定した準備が必要である」と結論付けている。

しかしながら、当該の調査は2大学10名の学生に限定したものであり、調査対象者の特徴を過度に反映してしまっている懸念がある。加えて、前提知識の不足に対応できるような複数の教材を準備するには、教員側の負担増大が障壁となることが予想される。そのため、本年度は2024年度調査結果の頑健性を再検討するとともに、生成AIを利用した教材の個別化の可能性について新たに検討した。具体的には、「オリジナルの教材よりも(生成AIによってアレンジされた)地域性や大学での専攻内容に親和性のある教材をより肯定的に評価する」というリサーチ・クエスチョンを大学生へのフォーカスグループインタビューを通じて検証した。

調査は2025年11月中旬に関東のA大学(経営学専攻)と関西のB大学(社会学専攻)の学生4名ずつ計8名に対して実施した。結果は前年度調査とほぼ同様であり、公開教材に対しては、とくに用語や図表に関する説明不足を指摘する声が多かった。数理・データサイエンス・AI 教育プログラムのリテラシーレベルの教材であっても、現在の大学生世代では基本的な知識・理解の不足が独学に対するハードルの高さとなっていることがうかがえた。

生成AIを用いた資料のアレンジに対しては、自身の専攻分野に親和性のある内容となることに概ね肯定的な反応が示された。例えば、オリジナルの資料にはないまとめの項目を専攻分野に関連したかたちで生成AIが追加することで、最後に学習した内容を振り返るきっかけになるなどの好意的な意見が挙がった。加えて、参照する分野によって同じ資料であっても主観的な難易度の捉え方が異なるという新たな発見が得られた。こうした傾向は資料そのものだけでなく、学習者の状況に応じた教材の個別化が独学においては重要となることを示唆している。

一方で、調査時点の生成AIでは内容に適した図表の作成や地域性の導入についてプロンプトでの修正が困難であること、コンテンツによっては生成AIを用いたアレンジが規約等で禁止されていることなどの課題も確認できた。今後はより簡易で社会的にも受容されやすい生成AIの活用方法を踏まえて、独学への効果的な支援について引き続き検討していきたい。


049RP2025 佐藤 哲也

シングルセルRNA-Seq(scRNA-Seq)技術は、細胞不均一性の解明に大きく貢献している。しかし、従来の解析手法は遺伝子全体の総発現量に基づいており、希少細胞集団や細胞サブタイプを高解像度で識別する上では十分とは言えない。一方、mRNAの3'非翻訳領域(3' UTR)における選択的ポリアデニル化は、細胞機能や運命に関与する転写後調節の重要な要素であり、細胞種・状態特異的なスプライシングバリアントとして現れる。こうした情報は、遺伝子発現量では捉えきれない細胞状態の指標となり得るが、既存のscRNA-Seq解析では十分に活用されていない。そこで本研究では、3' UTRピーク座標情報に基づくプロファイルを構築し、希少細胞やサブタイプ同定に資する解析基盤の整備を試みた。

 まず、公共データベースから取得したヒト末梢血単核細胞(PBMC)のscRNA-Seqデータをリファレンスゲノムにマッピングし、Seuratライブラリによるクラスタリング後、マーカー遺伝子に基づき各クラスタを細胞種にアノテーションした。次に、BAMファイルを細胞集団ごとに分割してMACS3プログラムでピークコールを行い、得られたピーク領域内のリード数を定量化することで、細胞種別の3' UTRピークプロファイルを構築した。識別性能は、ピアソン相関係数に基づく分類正解率により評価した。

 免疫系細胞5種(単球、CD4⁺ T細胞、CD8⁺ T細胞、NK T細胞、B細胞)に対して3' UTRピークプロファイルを作成・評価した結果、正解率は83〜99%となり、従来の遺伝子発現プロファイルによる正解率(59〜99%)を上回った。特にT細胞サブタイプの分類において、高い精度が得られたことから、選択的ポリアデニル化の多様性が細胞サブタイプの識別に有効であることが示唆された。

 なお、本研究の成果は、第48回日本分子生物学会において発表した。


051RP2025 齊藤昭則

南極昭和基地大型大気レーダー (PANSYレーダー) を用いた南極電離圏における沿磁力線不規則構(Field Aligned Irregularity; FAI)の研究を行っている。本研究では、FAIの空間構造を高分解能に推定できるイメージング手法を検討・適用し、FAIの解析を行う。その結果、実データに適用できるレーダーイメージング手法の確立、及び FAIの高分解能な空間構造推定が可能になり、先行研究では明らかにされなかった南極域 FAIの空間的性質の解明が期待される。
2025年度は、2024年度に行ったFAI観測の解析を開始した。

送信ビーム数の変更
FAIをより詳細に捉えるため、送信ビーム数を従来の3ビームから7ビームに変更した。従来は方位角φ=(-20°, -30°, -40°) であったところ、磁南方向であるφ=-40°を中心とし、φ=(-10°, -20°, -30°, -40°, -50°, -60°, -70°) のビーム構成とした(天頂角は60°で固定)。
これにより、広範囲をカバーするとともに、各ビーム間でのFAI観測結果の比較が可能となった。

FAIの解析
2025年2月26日〜28日に連続観測を行ったFAI 観測のデータの解析を開始した。観測されたFAIには2つのパターンが見られた。
1つ目は短い時間幅で繰り返し発生・消滅を繰り返すFAIであった。7つの各ビームでFAIエコーの強度、構造の違いが見られたため、局所的なFAIである可能性が考えられた。
2つ目は長時間連続的に発生するFAIであった。各ビームでエコーに大きな違いが見られなかったため、広範囲にわたるFAIである可能性が考えられた。
今回の観測では、従来の3ビーム観測と比較して、各ビームでのFAIのエコー強度、構造の違いを明確に捉えることができた。
FAI空間構造の推定は観測イメージから解を導く逆問題であるため、サイドローブ形状の異なる7つの送信ビーム全てで一貫する解を探索する。今回の送信ビーム数の変更により、今後の空間構造解析において従来からの精度向上が期待される。


052RP2025 橋本 真美

本年度は,前年度までに実施したSTA/LTA手法によるイベント検出および初期的な機械学習処理(特徴抽出およびクラスタリング)の結果を踏まえ,機械学習によるイベント自動検出手法の構築と適用を中心に解析を行った。 まず,連続波形データに対して従来と同一のパラメータセットによるSTA/LTAトリガーを適用し,抽出波形に対して連続ウェーブレット変換(CWT)を行い,得られたスカログラムを入力としてConvolutional Autoencoder(CAE)による特徴量抽出および次元削減を実施した。さらに,低次元特徴ベクトルに対してK-meansクラスタリングを適用し,シルエット分析により最適クラスタ数を21と決定した。 各クラスタに含まれる波形およびスカログラムを目視で確認し,意味的なラベル付けを行うことで教師データを構築した。これを用いてスカログラム画像を分類する畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を学習し,自動分類モデルを構築した。 構築したモデルをアレイ観測前半期間(2017年1月13日〜2月19日)のアレイ観測点および沿岸観測点の上下動成分に適用し,同時刻における検出観測点数に基づいてランキングを行った。その結果,10観測点以上で同時にイベントと分類された時間帯から1287個のイベント波形が抽出され,これは従来のSTA/LTA手法による検出数の10倍以上に相当する。ランキング上位にはSTA/LTAでは検出されていない氷震と考えられる波形が多数含まれており,本手法により未検出イベントの抽出が可能であることが示唆された。一方で,ランキング下位にはノイズも含まれており,高精度な自動抽出にはモデルおよびパラメータのさらなる調整が必要である。特に,教師データにおけるノイズとイベントのバランス改善が今後の重要な課題である。また,本手法はアレイ観測点を前提とした教師データに基づいているが,沿岸観測点のデータを拡充することで,アレイ観測が存在しない期間への適用可能性も示唆された。

加えて,STA/LTAにより検出されたイベントについて,その発生時期と潮汐・気象データとの関係を解析した。1時間ごとのイベント発生数と風速,気温,潮位,潮汐変化率を比較した結果,イベント発生時の潮汐変化率は非発生時に比べて有意に低く,負側への系統的なシフトが確認された(Mann–Whitney U検定:p = 2.97 × 10⁻⁴)。さらに,風速による検出バイアスの影響を考慮するため,イベント数を目的変数,潮汐変化率および風速を説明変数とするPoisson回帰モデル(各変数は標準化)を適用した。その結果,潮汐変化率は風速を考慮した後も有意な説明変数であり(β = −0.287,p = 0.009),潮汐変化率の増加に伴いイベント発生率が低下する傾向が確認された(インシデンス比 0.75,95%信頼区間:0.61–0.93)。

これらの結果は,STA/LTAにより検出されたイベントにおいては,潮位が低下する過程(潮汐変化率が負)でイベントが発生しやすいことを示唆しており,潮汐による荷重減少に伴う応力変化が氷震のトリガーとして作用している可能性と整合的である。なお,機械学習により検出されたイベントについては現時点でノイズの混入が残っているため,他の観測データとの比較は未実施であり,今後の課題とする。


共同研究集会

001RM2025 津田 卓雄

2025 年 9 月 16-19 日に中間圏・熱圏・電離圏 (MTI) 研究集会を含む 5 研究集会 (「MTI 研究集会」, 「令和 7 年 (2025 年度)・第 1 回 STE (太陽地球環境) 研究連絡会 現象報告会および現象解析ワークショップ (第一回: 宇宙天気現象の予測精度向上に向けて)」, 「超小型衛星を利用した超高層大気研究の将来ミッションの検討」, 「太陽地球系物理学分野のデータ解析手法,ツールの理解と応用」, 「異分野研究データの機関リポジトリ登録の実践」)を合同で開催した. MTI 研究集会では, 招待講演を中心とした口頭発表セッションと若手や学生を中心としたポスター発表セッションを開催した. 口頭セッションの一部として, データサイエンスセッションを企画し, 橋本大志氏 (国立極地研究所) による招待講演では, 「PANSY レーダーを用いた極中間圏冬季エコーのイメージング観測へのスパースモデリングの適用」についてご講演をいただいた. 林優希氏 (信州大学) による招待講演では, 「昭和宇宙線観測 7 年間の成果と今後」についてご講演をいただいた. 上記のデータサイエンス関連の招待講演に代表されるような研究発表と関連する議論・情報交換を通じて, 参加者と共に, 太陽地球惑星関連の科学分野における最新観測データの大規模化やデータサイエンスの最前線に関する理解を深めた. また, 研究集会の一環として, 開催場所である電気通信大学のレーザー実験室と電波観測システムの見学会を実施した. 以上のように, 研究集会全体を通じて活発な議論が行われ, 今後の発展につながる研究集会となった.


002RM2025 坊農 秀雅

"節足動物における次世代シーケンスデータ解析および公共データベース利用"というタイトルで研究集会を2025年12月18日-19日に行った。本研究集会の目的は、節足動物を扱う研究者のデータ解析リテラシーの向上、節足動物の研究者とデータ解析の研究者との議論を促進することによる新たな研究の展開である。参加者は合計12名とやや少ないが、データ解析を主たるミッションとする研究者(大学院の学生を含む)と節足動物を扱う研究者が、現在行なっている研究の発表を通じて、多様な視点からの濃密な議論や提案が、発表毎になされた(具体的な内容については以下に簡単に記述する。)。また総合討論においても、主催側が問題提起を行ったのちにその問題に関する議論が行われた。

まず研究代表者の坊農から「拙速ではなくなったゲノム配列解読とそのデータ解析」というタイトルで発表を行い、節足動物のシーケンスデータを得ることはもはや容易であるため、それぞれの研究者がデータ解析のリテラシーをあげることが重要で、データ解析をデータ解析がメインの研究者に実施してもらうにせよ、コミュニケーションを行う上ではデータ解析のリテラシーが必要であるという議論がなされた。

朝野 維起氏からは 「昆虫を特徴付ける遺伝子とは?:昆虫特有の外骨格形成に関する考察」というタイトルで発表があり、現在実施中の節足動物と原始的昆虫のゲノムデータ解析を通じて、昆虫を特徴づける遺伝子を探索中であるという報告がなされた。昆虫の研究者、データ解析メインの研究者双方からの提案や議論がなされた。

上原 拓也氏から 「コン活(コンピュテーション活動)のススメ~非インフォマティシャンが取り入れるデータ駆動型研究~」というタイトルの発表がされた。自身がゲノムデータ解析技術を取得し、その技術を利用して成果を上げたことが話された。さらに、自身が取得したデータ解析技術をベースに画像解析スキルも身につけ、昆虫の行動解析研究を実施したことが発表され、研究内容について議論がなされた。

池田 秀也氏からは「実験サンプルデータベースの混沌に大規模言語モデルで挑む」というタイトルで発表がなされ、Biosampleの記述に関する検索を規模言語モデルを使って実施するという発表がなされた。Biosampleの記述の揺らぎや、昆虫独特の遺伝子の表記、またショウジョウバエの独自の記述に関する議論など、昆虫研究者とデータ解析メインの研究者それぞれ独自の視点からの提案と議論がなされた。

小野 浩雅氏から「BioSkillDXプロジェクトの紹介」という発表がなされた。実験の技術や暗黙知を収録し、アーカイブするというプロジェクトの紹介がなされた。実験メインの研究者とデータ解析メインの研究者のそれぞれの立場からどのようにデータを取るのか、どのようにデータを整備していくのか、今後の展開などについて提案や議論がなされた。

望月 孝子、Febrina Margaretha両氏から「昆虫の遺伝子アノテーションの高度化」という発表がなされた。昆虫のゲノムデータは増えつつあるものの、遺伝子領域のアノテーションはまだ不完全なところが多いという紹介があり、これからその精度を上げるための両氏が進める研究内容について発表があった。本内容に対して昆虫の研究者、データ解析メインの研究者の双方からの議論・提案がなされた。

上記発表に加え総合討論を行った。本会を通じて、節足動物を扱う研究者とデータ解析メインの研究者が議論をすることで、双方の相互理解が深まり、また個別の議論などを通じてさまざまなアイデアの提案がなされた。このような研究集会を通じて、よりお互いの理解が深まり、各々の研究が加速し、また新規の課題考案などもできたと参加者から聞いた。以上のことから本研究集会の申請時の目的を十分に達成したと言える。


003RM2025 Dr. Anelia Kurteva

This research culminated in a joint workshop focused on sharing different mechanisms for governing responsible AI development. Specific focus was set on legal compliance as a principle for responsible AI. The two-day event was held at the National Institute for Informatics in Tokyo, Japan, and featured in-person presentations from researchers in the Center for Juris Informatics group led by Prof. Ken Satoh and co-organizer Dr. Anelia Kurteva. The workshop also included online presentations from international researchers working on the topic from different angles.

The first day focused on sharing research ideas through presentations on current topics in legal compliance and responsible AI. There were five speakers from the Center for Juris Informatics, as well as a session by the co-organizer, Dr. Anelia Kurteva. This day highlighted several critical research aspects regarding the implementation of legal norms and compliance checking for AI systems. Furthermore, it proved particularly useful for networking and identifying shared research interests and skills.

The second day was dedicated to online presentations by international speakers from Ireland, France, Belgium, and the USA. These presentations showcased a diverse range of research and aimed to connect scholars to support the growth of a collaborative network.

Following the conclusion of the workshop, we engaged in more in-depth discussions with the Center for Juris-Informatics regarding potential collaborations. Some of the topics that arose as possible collaborative ideas revolved around the combination of logical reasoning and ontologies for law and their use for implementing trust metrics in AI systems.


004RM2025 山本景一

概要
2025年9月26日、情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設(ROIS-DS)において、「データプライバシーと合成患者データの可能性を検討する研究会合」を開催した。本研究会合には、医療情報学、セキュリティ、企業、国際データ共有基盤など多様な分野の専門家が参加し、合成患者データの社会実装に向けた課題と可能性について、集中的な議論が行われた。

背景と目的
医療データの利活用は、プライバシー保護や法制度の制約により依然として大きな課題を抱えている。
こうした状況の中で、個人を特定できない形でデータを再構成する「合成患者データ」は、データ共有とプライバシー保護を両立する新たな基盤技術として注目されている。本研究会合では、技術的基盤、倫理・法制度、実用化に向けたユースケース、等を統合的に整理し、実装に向けた具体的な方向性を議論した。

主な成果
1. プライバシー保護とデータ利活用の新たな枠組みの提示
メンバーシップ推定攻撃に対する差分プライバシーを用いた評価手法などにより、「安全性と有用性を両立させる設計」の重要性が明確化された。合成患者データは、従来の匿名化とは異なるアプローチとして、データ共有の新しい選択肢となり得ることが示された。

2. 日本における医療データ利活用の課題の再整理
国内では医療データの活用が制度・運用の制約により限定的である一方、海外では大規模データ基盤が研究成果創出に結びついている。本研究会合では、合成患者データがこのギャップを埋める鍵となる可能性が共有された。

3. 実装を見据えた具体的ユースケースの創出
以下のような実践的な応用シナリオが提示された。

臨床試験データを用いた外部対照群生成
秘密計算・連合学習による希少疾患データ解析
これにより、研究段階から実装フェーズへの移行可能性が具体的に議論された。

今後の展開・まとめ
本研究会合では、分野横断的な知見を結集することで、合成患者データの社会実装に向けた課題と可能性が体系的に整理された。本研究会合を契機として、以下の取り組みを推進する。
合成患者データの評価基準・標準化の検討
法制度との整合性整理
産学連携による実証・実装
国際データ共有基盤との連携
合成患者データは、医療データ利活用のボトルネックを解消し、次世代のデータ駆動型医療・研究基盤を支える重要技術である。本研究会合の成果を基盤として、具体的なユースケース創出と実装検証を通じた展開の加速が期待される。


005RM2025 西川泰弘

惑星・氷衛星の地震観測・データ利活用に向けた極域氷震研究集会

 本研究集会は、南極域における氷震観測と惑星地震学研究の連携を目的として、データサイエンス共同利用基盤施設(ROIS-DS)の研究集会として開催された。研究集会は名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)との合同開催として実施され、極域で観測される地震・インフラサウンドデータの利活用および惑星探査の応用可能性について議論することを目的とした。

研究集会は2026年3月5日および6日の2日間、東京都立川市のROIS-DS施設で開催され、対面とオンラインによるハイブリッド形式で実施された。南極観測、惑星探査、地震観測機器開発、インフラサウンドデータ解析、氷衛星などに関わる研究者が参加し、南極氷震の最新動向、投下貫入型観測装置ペネトレータの開発、NASA Dragonfly計画におけるタイタン地震観測、インフラサウンド観測の応用可能性などについて、合計17件の発表が行われた。

また、深層学習を用いた南極氷震の自動検出など、データサイエンス手法を用いた解析研究の紹介も行われ、極域観測データの新しい解析手法について議論が行われた。研究集会を通じて、南極観測を惑星探査の地球アナログとして活用する研究の重要性が確認され、極域観測と惑星地震学を結ぶ学際的研究の発展に向けた研究交流が勧められた。

本研究集会はROIS-DSの旅費支援により実施され、ISEEとの合同研究集会として開催された。


006RM2025 阿部修司

2025年9月16日から20日にかけて、電気通信大学及びハイブリッド形式で研究集会「太陽地球系物理学分野のデータ解析手法、ツールの理解と応用」を実施した。本研究集会は分野横断研究の促進や研究者コミュニティの形成を目指し「STE現象報告会」「MTI研究集会」「超小型衛星を利用した超高層大気研究の将来ミッションの検討」「異分野研究データの機関リポジトリ登録の実践」との合同研究集会として開催した。研究集会では、招待講演を中心とした口頭発表セッション、5研究集会合同のポスター発表セッション、体験学習方式のデータ解析セッションをおこなった。口頭発表セッションでは、オープンサイエンス時代における研究データマネジメントの紹介や、国立環境研究所や超学際ネットワークTranSEHAにおけるデータ利活用の取組、データサイエンスの手法を用いたオーロラや磁気嵐の解析など、多くの興味深い講演が行われた。これらの分野における最先端の活動・研究成果の講演と関連する議論・情報交換を通じて、データサイエンスへの理解を高めることができた。データ解析セッションでは、Pythonベースのデータ解析ソフトウェアを用いたハンズオン形式の講義を、2024年5月に発生した巨大宇宙嵐イベントを題材におこなった。本セッションを通じ、参加者は基本的なデータ解析の方法や2024年5月イベントの概要について詳しく理解することができた。また、合同研究集会の一環として、開催場所である電気通信大学桂川研究室のレーザー実験施設及び宇宙・電磁環境研究センターの HFドップラ観測施設の見学会を実施した。普段知ることのない実験・観測の場に立ち会うことができ、幅広い層にとって大きな価値ある機会となった。以上のように、全体として大変有意義な研究集会であり、今後の発展に繋がる良い結果を得ることができた。