理念や概要について紹介します。
各組織の概要について
全国の研究者等に広く共同利用/共同研究の機会を提供するため、「ROIS-DS-JOINT」として、共同研究課題の募集を行なっております。
採用情報、イベント情報などをお知らせします。
ニュースに投稿されます
所在地、お問い合わせフォームがあります。
2021(令和3)年9月30日 農研機構 広島大学 情報・システム研究機構
農研機構は、シルクタンパク質産生に重要な時期のカイコ幼虫においてどのような遺伝子が生体内のどこでどの程度働いているか(網羅的遺伝子発現)がわかるデータを作成・公開しました。本成果は、カイコの高いタンパク質合成能力をさらに引き出して、有用タンパク質の生産にカイコを活用する道を拓くと期待されます。
カイコは絹糸を生産する家畜化された昆虫です。農研機構は絹糸の構成成分となる2種類のタンパク質(フィブロインとセリシン)が合成される器官(絹糸腺)で他の生物が持つ遺伝子を働かせて有用タンパク質をカイコに作らせる技術を以前に開発しており、これまでに動物医薬品の原薬の生産等に利用されています。現在は、この技術を改良し有用タンパク質の生産量を上げることでより広汎なタンパク質の産生に利用できるよう研究を進めています。 有用タンパク質の産生効率向上には個々の遺伝子機能だけではなく、特定条件下での遺伝子発現の変化を網羅的に捉えた遺伝子発現データが重要になります。そこでシルクタンパク質産生に重要な時期のカイコ幼虫における網羅的遺伝子発現データを取得しました。さらにヒトやショウジョウバエの遺伝子情報との対応づけを行うことでこれらのデータベースにある膨大な遺伝子情報の利用を可能にしました。得られたデータはカイコの一生で特に多様で重要な生命活動が起きる時期に得たものであるため、カイコにおける有用タンパク質産生の研究のみならず、カイコや他の生物種の基礎から応用までの様々なフェーズの研究を促進することが期待されます。そのため、本データを公開することにしました。 得られたデータは農研機構が公開しているカイコゲノムデータベース・KAIKObase(カイコベース)に公開しています。今後はこの網羅的遺伝子発現データを用いたデータ駆動型研究1)を実施し、個々の遺伝子の関連性を解明して、有用タンパク質の生産を制御する遺伝子群を同定することで、カイコによる、動物やヒト用の医薬品原薬などの有用タンパク質の産生能力を向上させ、本技術の普及を目指します。
予算:農林水産省委託プロジェクト「蚕業革命による新産業創出プロジェクト」、内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「昆虫(カイコ等)による有用タンパク質・新高機能素材の製造技術の開発・実用化」
研究推進責任者:農研機構生物機能利用研究部門 所長 吉永 優 研究担当者:同 生物機能利用研究部門 昆虫利用技術研究領域 (兼)同 基盤技術研究本部 農業情報研究センター AI研究推進室 主任研究員 横井 翔 TEL 029-838-6129 広報担当者:同 生物機能利用研究部門 研究推進部 研究推進室長 古澤 軌 TEL 029-838-6005 プレス用e-mail nias-koho@ml.affrc.go.jp 広島大学 財務・総務室 広報部広報グループ プレス用e-mail koho@office.hiroshima-u.ac.jp 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)広報担当 プレス用e-mail public_relations@dbcls.rois.ac.jp
カイコは絹糸生産に用いられる家畜化された昆虫です。多量の絹糸を産生する系統や高品質の絹糸を産生する系統を作製するために、農研機構は長年カイコの研究を進めてきました。一方、1980年から2000年にかけてカイコで動物やヒト用の医薬品原薬となる有用タンパク質生産を行う方法が開発されました。これにより、カイコは「有用タンパク質を作る家畜」として新たな価値が見出されました。農研機構では、絹糸の構成成分となる2種類のタンパク質(フィブロインとセリシン)が合成される器官(絹糸腺)で、外来の有用タンパク質をカイコに作らせる技術を開発しました。この技術の普及には更なる生産性の向上が求められており、それにはカイコのゲノム情報2)や遺伝子の発現情報等の基盤情報が重要になります。そのため2004~2009年に本研究所が中心機関となり世界に先駆けてカイコゲノム情報やそれに付随した遺伝子の発現情報の取得・整理を行い、データベース・KAIKObaseを構築し、公開しました。
農研機構はKAIKObaseを通じて、カイコやその他の昆虫の様々な研究の推進に貢献してきました。一方で、ゲノム塩基配列情報を解析するシーケンス装置3)はこの10年で飛躍的に発展し、膨大な塩基配列データが極めて低コストで得ることができるようになりました。そこで、2019年に農研機構は東京大学、遺伝学研究所と共同でカイコの高精度ゲノム情報を取得し、KAIKObaseを大幅に改良し、公開しました。 カイコによる、有用タンパク質のさらなる産生効率の向上には、個々の遺伝子機能だけではなく、特定条件下における様々な組織における遺伝子発現の変化を網羅的に捉えた遺伝子発現データが重要になります。今回、広島大学大学院統合生命科学研究科、情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設ライフサイエンス統合データベースセンターと共同でカイコの様々な組織における遺伝子の網羅的な発現データを取得しました(図1)。これらのデータはカイコの一生の中で特に多様で重要な生命活動が起きる時期に得たものであるため、カイコにおける有用タンパク質産生の研究のみならず、カイコや他の生物種の基礎から応用までの様々なフェーズの研究を促進することが期待されます。そのため、本データを公開することにしました。
今回得られた遺伝子発現データは汎用性の高い情報ですので、カイコや他の生物種の基礎から応用までの様々なフェーズの研究を促進することが期待されます。 農研機構では、本研究で得られた網羅的発現量データを用いたデータ駆動型研究によって、各遺伝子間の関連性を解明し、有用タンパク質の生産を制御する遺伝子群を同定することで、従来よりも高効率に動物やヒト用の医薬品原薬などの有用タンパク質を産生するカイコの作出を目指します(図3)。
Kakeru Yokoi*, Takuya Tsubota*, Akiya Jouraku, Hideki Sezutsu and Hidemasa Bono Reference Transcriptome Data in Silkworm Bombyx mori. Insects 2021, 12(6), 519; https://doi.org/10.3390/insects12060519 *両著者同等貢献
図1 発現データの取得 絹糸の生成に重要な時期である5齢3日目の幼虫の主要な組織からRNAを抽出し、それぞれの組織における遺伝子発現データを取得、さらに参照RNA塩基配列を取得しました。
図2 ヒトやショウジョウバエとの比較 カイコの遺伝子に関するデータが少ないため、カイコの遺伝子をヒトやショウジョウバエの遺伝子と対応づけすることで、ヒトやショウジョウバエの遺伝子に紐づいている膨大なデータをカイコの遺伝子に利用することを可能にしました。
図3 研究成果の活用 本研究成果である網羅的発現量データを用いてデータ駆動型研究を実施します。有用タンパク質を高効率に産生するカイコを作出することで、カイコによる有用タンパク質産生技術の普及を目指します。