生命システム

次世代シーケンサによるゲノム関連情報の大規模生産とその情報解析手法の開発

次世代シーケンサを中心とする最新のゲノムテクノロジーを駆使して、年あたりペタバイト級の超大容量ゲノム・遺伝子関連データを系統的に生産します。統計学的な解析手法を開発して、得られた情報から、生命システム原理についてのデータセントリックな理解に繋げることを目指しています。

第1期新領域融合研究プロジェクト「生物多様性解析」において、ナメクジウオゲノム、メダカゲノム、ラットゲノム、チンパンジーゲノム等の解読を大規模な国際共同研究として行い、成果を上げています。また、新型シーケンサの導入とさまざまなゲノムの解読を進め、大腸菌、線虫などの変異体の変異部位の特定や、日本産野生マウス系統についての比較ゲノム解読、ヒト個人ゲノムの解読等を行っています(Kasahara et al., Nature, 2007, Putnam et al., Nature, 2008, STAR Consosium, Nat. Genet., 2008, Rensing et al., Science, 2008など)。ニワトリのセントロメア領域に存在するタンパク質の同定や、ニワトリ培養細胞でゲノムを改変する技術を開発してきました (Hori et al., Cell, 2008; Amano et al., J. Cell Biol., 2009)。

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研究の進捗状況

1-1:大規模シーケンサの稼働とシステム、パイプラインの整備

22年度に、最新の次世代型シーケンサとしてIllumina社製HiSeq2000型及び試料調製装置c-BOTを導入した。本装置は、これまでに遺伝学研究所シーケンスセンターで運用していたIllumina社製GenoemAnalyzerGAIIxに較べて約5倍の効率向上を果たしている一方で、読み取り精度は当初GAIIxよりも低いなど、情報処理段階での負担が増加した。そのため、現在、読み取り精度とデータ生産能力のさらなる向上に向け、各種の条件を検討している。
 国立遺伝学研究所シーケンスセンターでは、これらの装置を含む7台の次世代型シーケンサ(HiSeq2000 (Illumina), 5500xl SOLiD (ABI), GS FLX (Roche))からなる大規模配列決定システムを保有しており、これらを有機的に運用する大規模配列決定システムの構築と、迅速な配列データの処理のための情報処理パイプラインの整備を進めている。
 これにより、サブテーマ2,3はもとより、「地球生命システム」プロジェクトへの一層の寄与が期待されるが、同時に情報統計処理段階への負荷が大幅に増大することが期待される。

1-2:高次ゲノム機能領域の解析

 細胞が分裂する際、両極から伸びた紡錘糸が、全ゲノム情報を持つ染色体の特殊領域セントロメアを捉えて2つに分けることでそれぞれの娘細胞へと分配される。多くの生物種では、セントロメア領域は巨大で複雑な反復配列から構成されており、解読も機能解析もきわめて困難と考えられてきた。本研究では、このセントロメア配列の実体と、その配列の機能的意義を解明することを目的としている。
 22年度は、共免疫沈降法により、ニワトリセントロメアタンパク質CENP-Aに結合するDNA配列を探索し、FISH解析により実際にセントロメア領域に局在する配列を選別した。そのDNAのシーケンスを解析した結果、染色体ごとに、セントロメア配列が異なることが判明した。
 また同時に、CENP-Aと結合するDNAを、新型シーケンサで直接解析したところ、サザン解析では、非反復配列のピークも見られ、FISH解析から、確かにセントロメアに存在非反復配列であることが確認できた。今後は、この染色体領域を改変した細胞を用い、この配列の機能的意義を明らかにする。
 ニワトリゲノム配列は、まだ不正確な情報が多く、新型シーケンサから得られた配列のマッピングには、高度な情報学の手法が必要であり、融合研究の意義もあわせて確認できた。

1-3:植物における高次ゲノム機能研究の超大規模化

 モデル植物であるシロイヌナズナ(A.thaliana)の同属近縁種セイヨウミヤマハタザオ(A. lyrata)の内在レトロトランスポゾン(ゲノム中を転移して動く遺伝子)Tal1は、セントロメアに偏って分布する。この偏りが挿入自体の部位特異性によるのか、他の部位への挿入が自然選択により排除されるのかを知るため、Tal1をシロイヌナズナに導入し、転移を誘発して全染色体動態解析を行っている。予備的結果では動原体特異的に挿入が示唆されている。今後は、Tal1 挿入部位の特異性を定量化していく。
 また、シロイズナズナではゲノムDNAのメチル化修飾が減少すると、多くのトランスポゾンの転移が起こることを見いだしている。これらを対象に、ゲノム構造の変化(トランスポゾンの転移やその他の再編成)を網羅的に調べる予定である。

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