人間とコンピュータが協調してつくりあげる
“データにもとづいて考えるスーパー科学脳”の実現
理論に基づくシミュレーションと、実験・観測データの統計解析法、両者の進歩への貢献が統計数理学の役割です。近年の計算機処理能力の向上によって、あらゆる研究分野で大規模かつ複雑精緻なシミュレーションが可能になりました。その一方で、大量のシミュレーション結果から時間変化・空間変化を包括的に捉えることは難しく、膨大な観測・計測データとの比較によるシミュレーションモデルの改良も不十分です。これらの問題に真正面から取り組むデータ同化研究を通して、シミュレーションと大量データ解析の両者を統合する学問体系の確立を目指しています。
気象学や海洋学で産声を上げたデータ同化は、数値シミュレーションと観測・実験データをつなぐための基盤技術として、今やその応用範囲を宇宙科学や生命科学、さらには「ものづくり」の分野にまで広がり、自然科学や社会科学において確固たる地位を築きつつあります。また、データ同化によって仮想観測ネットワーク実験や感度解析が可能になり、限られた研究費内で最大限の知見を獲得する効率的な実験・観測システムを立案・構築することが可能になります。
データ同化を行う上で大きな問題となるのが、予報を行うための最適な初期条件の探索や、スケールが全く異なる現象をシームレスに連結するシミュレーションモデル内のパラメータ設定などです。これらの問題に取り組むため、データ同化研究における経験と実績のある統計数理研究所、豊富な実験・観測データを所有する国立極地研究所や国立遺伝学研究所などの国内外の研究・教育機関と連携し問題解決を目指します。
また、他機関・他分野の研究者との交流を通して、さまざまな学術分野でのデータ同化研究に対する潜在的なニーズを掘り起こし、複雑なシステムの理解と予測、またその計測デザインといった、あらゆる研究領域に役立つ手法の確立を目指しています。
Spherical simplex近似とMonte Carlo近似を用いた、新たなハイブリッド・アルゴリズムを開発。
大地震によって励起される「地震音波」の伝搬特性について、数値シミュレーションと微気圧観測データを融合するデータ同化によって明らかにし、固体地球−大気−電離層の物理的相互作用メカニズムを解明することを目指しています。
南極氷床への1年当たりの雪の涵養量と、1年当たりの雪の伸び縮み率から年層の雪の厚さを算出し、深度方向に積分していくことで、深度に対する年代を推定する年代決定手法にデータ同化を適用し、計算コストのかからない、より正確な推定を行う手法の開発を試みている。
地球磁気圏シミュレーションの境界条件についてデータ同化実験を行い、地球磁気圏に発生する様々な電磁気現象(例:オーロラ)をよく再現する最適な初期条件の探索を行います。
南極大型大気レーダー(略称:PANSY)プロジェクトのデータ処理を題材として、観測現場でリアルタイムに得られる高速、高分解能、多次元データの輸送の問題について研究します。
体節形成の周期性とパターンをもたらす体節時計や前後極性形成機構を調査します。既存の節形成モデルにマウスのデータを同化することで体節形成制御機構の解明を目指します。
単細胞を用いた遺伝子発現の変動を時系列に沿って解析し、生殖細胞の性分化における細胞間の揺らぎや不均一性の時間変化を調査します。また遺伝子カスケード予測の可能を検討します。